授業の事例紹介

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Pick Up Lesson Vol.87

 

アクティブ・ラーニングの活用方法
③大学におけるアクティブ・ラーニング取組事例

大阪商業大学 経済学部 准教授 柴田 孝
大阪商業大学 総合経営学部 准教授 林 幸治

1.大阪商業大学の起業教育の取り組み

 大阪商業大学は平成10 年度(1998年度)より「起業教育」に取り組んできた。ここでいう起業教育とは、社長を生み出せればよいといったものではなく、もちろん簡単にできることでもないことを認識し、それよりも、①自立性・チャレンジ精神・創造性・積極性・探究心といった「アントレプレナーシップ」、②決断力・リーダーシップ力・情報収集分析能力・判断力・問題解決能力・行動力といった「起業家的資質・能力」の2つをもつ人材を育成することを目的として取り組んできたものを指す。実学教育の蓄積を基礎に、ただ大学の中だけで完結するのではなく、広く地域社会や高等学校との連携を意識し、大阪商業大学だけでなく、高大連携・地域連携もふまえた取り組みとして行ってきた。

 また近年、キャリア教育の実施が求められる中、大阪商業大学ではキャリア教育を包括した概念として「就業力教育」とよぶ教育活動を実施してきている。そこでは『学生一人ひとりが将来の目標を見つけ、意欲的に学生生活を送り、将来楽しい働き方が実現できるよう、入学前教育から卒業に至るまで、実践を重視した授業や、社会とのかかわりを体感するプログラムなどを設置し、体系立てた就業力育成を実施(大阪商業大学ウェブサイト「就業力教育」より引用)』している。

 こうした取り組みには、高校生を対象とした「全国高等学校ビジネスアイディア甲子園」があり、高校・中学の教員と共に取り組む「起業教育研究会」や、「大商大ビジネス・アイディアコンテスト(※大阪商業大学生対象)」がある。その他に「大商大アントレ・ラボ」にも取り組んでいる。

 本学の就業力教育は、その特徴として、大学側が教授する部分(たとえばキャリアを考えるための準備の仕方を学ぶ各種就職支援講座)以外に、学生が自ら考え取り組む活動を多く用意している点にある。平成24 年8 月28 日に出された中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」答申で『教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法』をアクティブ・ラーニングと定義している。答申は続けて『学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めて汎用的能力の育成を図る』と述べているが、本学の「全国高等学校ビジネスアイディア甲子園」、「大商大ビジネス・アイディアコンテスト」、「大商大アントレ・ラボ」の各種取り組みは、まさしく、アクティブ・ラーニングの要素を持つ教育プログラムであるといえる。

2.大学生を対象とした起業教育1『大商大ビジネス・アイディアコンテスト』

 『大商大ビジネス・アイディアコンテスト』(以下、コンテストと呼ぶ)は2016 年度に第14 回目を迎えた。このコンテストは、大阪商業大学の学部学生・大学院生を対象としたビジネスアイディアコンテストであり、その目的は「コンテストを通じてビジネスに必要な企画力、プレゼン力を養う」ことにある。

 本コンテストは、学生が自分で、正解がない課題に取り組むことを通じて、「課題を発見」し、「課題を解決する」方法を考案し、それをビジネスアイディアとして表現するという過程が、論理的思考力や創造力の涵養に資すると捉えている。またこうした活動そのものが、講義型授業ではないために、アクティブ・ラーニングの要件を持っているといえる。

 コンテストには、毎年、1・2 年生を中心に多くの学生が応募してくれており、本学の定員が1 学年1000 名、4 年までで4000 名の定員のなかで、毎年800 件程度の応募となっている。取り組み支援としては、アイディアのまとめ方や過年度の受賞作品の解説を掲載した活用ガイドを発行するほか、各教員によるゼミナールでの個別の説明のほか課題説明会を実施し、きっかけづくりに努めている。こうしたコンテストは、取り組んでみようという本人の意思がなければ始まらないため、様々な機会を用いてコンテストの周知に取り組んでいる。

 また、地域企業に課題提供企業として参画してもらうこともおこなっている。第10 回(2012 年度)より課題部門を設置し、2016 年度で5 年目となる。課題部門では、企業から提示されたテーマに即してプランを考えることになる。現在のところ、2社にご協力いただいている。この間、第11 回(2013年度)の課題部門作品(第3 位入賞作品)が、課題提供企業と連携し、商品化につながった。商品名「マグネット反射ワッペン」は、コンテスト応募時には「オシャレ蛍光ワッペン」という作品で、課題提供企業である旭電機化成株式会社から商品化に向けてのお声掛けをいただいた。発案者の学生は、旭電機化成(株)の方々にアイディアを説明し、市場調査・結果の分析、改善提案と試作品の作成など、約1 年をかけて作品を練り上げていき、また、旭電機化成(株)の皆様のご支援のもと、商品化に到達することができた。また、当該学生はこの一連の活動を通じて、アイディアを商品につなげることの難しさと大変さを学ぶとともに、多くのプロセスが一つの商品の背後にあることを理解し、また、これまでに接点がなかった異なる年代の人と交流を持つことを通じ、人間的に大きく成長できたと話してくれている。商品化プロセスに参加できる機会を得た学生にとっては、自分の力で学外の他者と協働すること、そのためには自分の持てる力を最大限発揮し、かつ求められることを学び能力を高めながら行動することとなり、学内の講義では体験することが難しい成長の機会を得ることができている。コンテストでは、ビジネスアイディアにチャレンジすることで「周囲を観察し、課題解決策をプランとして整理し、他人に伝わるよう企画書を作成する」といった機会を提供しているが、最終審査まで進み観客の前でアイディアを説明する機会を得た少数の学生を除いては、そのアイディアを元に学生が成長していく方法を提示できているとはまだまだいえない。そうした点で課題提供企業のご理解とあたたかいご支援は本学の教育に携わるものとして、なににもかえがたい貴重なものと受け止めている。

 一方で本学はコンテスト以外の方法として、こうした学外の他者(地域社会・コミュニティや企業)と協働する過程を通じて、社会的問題解決能力を伸ばす「フィールドワークゼミナール」という取り組みをすすめている。こちらの取り組みに参加する学生も、協働する過程を通じて、学内の講義では体験することが難しい成長の機会を得ることができていることを申し添えておきたい。

3.大学生も対象とした起業教育2『大商大アントレ・ラボ』

 平成10 年度から取り組みを開始した起業教育の中で、地域連携・社会連携を意識し、インキュベーション(孵化)施設である「大商大アントレ・ラボ」が2001 年度に開所された。その設立目的は『商業・情報・サービス・コンサルタント等の分野での起業家を支援し社会的貢献を果たす』こととされた。施設面では、パーティションで区分された開放型ブースタイプが12 ブース、壁で仕切られた個室タイプが3 室に加えて、共用のミーティングスペースが設けられている。入居者は申請を受けて、ビジネスプランに基づく審査により決定される。そして、入居者は自身の事業に取り組みつつ、毎月1 回開催される起業進捗報告会(定例会)に出席することが求められている。起業家支援施設として開所されているため、入居者は社会人起業家が主であったが、徐々に学生のなかで起業に関心がある学生にも門戸を開く形で、学生入居者もみられるようになってきた。現在では、過年度の学内アイディアコンテストの入賞者4 名(4 年生1 人、3年生1 人、2 年生2 人)が入居し、活動をおこなっている。

 しかしながら、定例会が入居者支援のための勉強会・意見交換会の役割を担うものとされている一方で、学生入居者の参加がふるわない状況が続いていた。理由の一つとして、開催時間が16 時30 分から17 時30 分となっており、ちょうど5 時間目と重なってしまっていることがある。社会人入居者はフルタイムで自らの事業に専念できるが、学生入居者は学業が主であるため、参加しやすさにずれが出ていた。また、他にそもそも学生の間に起業することが非常に難しいという現実面もある。こうしたなかで、純粋な起業支援施設としてだけではなく、大学にある施設として、学生に起業のプロセスを学び、起業の難しさを体験してもらうこと、そして起業教育で育成する「アントレプレナーシップ」「起業家的資質・能力」の涵養といった面での貢献を目指すことも必要ではないかというように変化してきた。

 こうしたなかで、学生入居者の活動活性化を促し、それによりラボ全体を活性化させることを目指して、入居者支援の取り組みを改善することとした。その一つが「ラボカフェ」である。学生も出席しやすいことを念頭において、毎週1 回昼休み時間帯に、入居者と起業教育委員会担当教員とが、ランチを持ち寄ってミーティングを行うこととした。毎回の話題は特に限定せず、各自が取り組むコンテスト応募案や、最新のビジネス・流行など、興味関心と必要性に応じて柔軟に対応している。このラボカフェでは、特に、これまで以上に教員が積極的に関与していることが特徴である。2016 年4 月20日に第1 回を開催して以降、7 月末までで計13 回実施してきた。この期間には、腕試しとして学外のコンテストに挑戦することとし、卒業旅行プランニングのコンテストに応募することとなった。学生入居者はチームを組み、プランのコンセプトや概要についてディスカッションを重ね、練りあげてきた応募案を無事提出できた。その過程で教員はディスカッションに参加し、質疑応答を通じて学生自身の手でプランを固めていけるように助言を行っている。参加しやすい時間帯の設定、食事をとりながらフランクに話し合う環境づくり、毎週1 回という定期的な開催など、こうした仕組みをつくることで、ラボの魅力を高め、学生の活動を活性化させていくことにつながると期待している。

 このようにラボは入居者支援・活性化に向けての新たな活動を開始している。ラボで活動する学生が得られるものとして、講義時間外に、自分たちで設定した課題・目標に向けた活動を通じて、自主性・自立性を養うこと(意欲・態度、自己管理能力)、協調性を養うこと(人間関係形成・社会形成能力)、論理的思考力や想像力を養うこと、これらはキャリア教育でも求められている能力であるが、こうした能力の形成につながると期待される。アクティブ・ラーニングの観点からいえば、特に大学は講義形式がまだまだ中心となるなかで、2016 年度前期に取り組んだ内容をふまえて説明するならば、目標を設定(卒業旅行プランコンテストに応募し入賞を目指す)し、目標達成に向けて必要な情報を調査(既存の卒業旅行プランの収集・分析、不満な点の抽出)、課題解決方法を提案(具体的に旅行プランを構築・提案)することなど、学生本人による主体的な学びにつながるものといえる。

参考文献

・大阪商業大学「平成16 年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」成果報告書『大阪商業大学の地域や高校と連携した起業教育・起業家育成』」