「なんでやねんと考える力"クリティカルシンキング"」 | 講演会レポート | 大阪商業大学 総合交流センター

講演会レポート

「なんでやねんと考える力"クリティカルシンキング"」

セキセイ株式会社
代表取締役会長
西川 雅夫

はじめに

「批判的思考」と訳される言葉が教育現場で注目を集めています。授業に取り入れている学校からは、これまでとは違う学力、これからの社会で生きていく力を育てようという意気込みが伝わってまいります。「日本の子供は論理的に考え、根拠を示して伝えるのが苦手」。以前からあった指摘ですが、社会のグローバル化が進む中で教育関係者の危機感は高まってきています。

この文章は、最近の日経新聞に紹介された記事ですが、なぜなぜと問い続ける力が今の子供達に必要だというのは、私の「なんでやねん」の発想に大変似ていると思います。この問い続ける力を、私は著書で「考疑心」と名付けましたが、まさに現代人に不足しているものであると感じます。現代の情報が溢れている世の中で、話を鵜呑みにせず、自分で考える力と、1割でも良いから疑ってみることが大切ではなかろうかと思うのです。この疑うという「クリティカルシンキング(批判的思考)」こそ、根拠に基づいた言動ができる子供を育てる教育に通ずるものだと確信しています。

1.今をおかしいと思わなければ、「なんでやねん」の発想は生まれない

アメリカやフィンランドではクリティカルシンキング(考える力、批判的思考)の教育が行われております。大阪では「なんでやねん」とつっこむことで、原因を追究するというところがあります。

私は先般「なんでやねん」、そして「新・なんでやねん」を出版いたしました。

「なんでやねん」の発想は、現状を当たり前だと考えたままで、今をおかしいと思わなければ、生まれません。真夏に36度の気温が毎日続くことに「暑いな」と思われる方もいれば、「この気象状況はなんでやねん」と考えられる方もいらっしゃるでしょう。

「なんでやねん」を出版した大きなきっかけは、エスカレーターに乗る際に大阪では右に並び、東京や名古屋、京都では左に並ぶということに「なんでやねん」と感じたことであります。アイスクリームやワイン、紹興酒に賞味期限が書かれていないことにも「なんでやねん」と感じました。100個程の「なんでやねん」を考えておりましたので、還暦を機に、これらをまとめて出版することにいたしました。

さて私は大阪教育大学附属天王寺小学校に通っておりましたが、小学校1年生から2年生の時に「なぜだろう、なぜかしら」という本をよく読んでおりました。この本には月の満ち欠けや潮の満ち引き、表面張力や三角形の内角の和が180度であることなど、様々なことが書かれております。それが今日の私の「なんでやねん」の発想に繋がっていると思っております。

世の中には見えるものと、見えないものがあります。見えないものこそが大事であり、「人の行く裏に道あり宝の山」という言葉がありますが、皆の通っている道よりも少し回り道をし、前から横から斜めから見ることで、宝の山をたくさん見つけることが出来るのではないかと思います。

南カリフォルニア大学の誇りである数学者リチャード・E・ベルマン教授は、いつも学生に「良い質問は答えより重要だ」と教えたそうです。私も「なんでやねん」というつっこみの方が、答えよりも大事だと思っております。「なんでやねん」を考える発想力を子供や学生、一般の方にも持っていただきたいと思います。そのため、「なんでやねん」の本には答えは書いておりません。答えは皆様に考えていただきたいと思っております。

ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏は大阪教育大学附属中学校・高等学校の後輩であり、先日会食いたしました。ノーベル賞を受賞し賞金をもらうと、それを世界に教育として還元すること、講演をすることが求められます。そのため、現在のところ山中氏は月に10日間程は海外に出向かれています。

また、別の日には青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した天野浩氏とも、講演会にてお話する機会がありました。

このお二人に「ノーベル賞を受賞できたのはなんでやねん」というつっこみを入れると、たゆまぬ努力だとお話をされました。1つの信念に向かってこられたとのことです。発想は「なんでやねん」ですが、その後は1つのことを追究する信念が必要ではないかと思います。

2.今のトレンドが分からなければ、「なんでやねん」は始まらない

現状をおかしいと思わなければ「なんでやねん」の発想は生まれてこないとお話しました。やはり今がどんなトレンドになっているのかということが、一番大事ではないかと思います。

最近の若者を分析すると、格好の良い車に乗りたがらず、時計もしたがらず、マージャンもしません。しかしながら、古い物を大切にしておりエコロジーを重んじています。その根拠は三浦展氏著の「シンプル族の反乱」という本にあります。ここに書かれている内容は、団塊の世代であるシンプル族の子供世代(現在30~40代)についてのことです。三浦氏がおっしゃるには、物にこだわらない、物を集めようとしない人が増えているとのことです。商品開発においても、そのあたりにターゲットを合わせていかなければなりません。シャープやナショナルがマーケティングを少し怠り、海外で機能をたくさん付けた商品を一生懸命売り出しましたが、アメリカでは多機能は求められておらず、安いサムスンの方が良かったという結果に終わりました。今の時代の若いターゲットの考え方に、合わせていくということが大事ではないでしょうか。

また、竹内一郎氏著のベストセラーとなった「人は見た目が9割」という本では、人は耳からはほとんど入らず、見た目で判断するということが書かれています。その中の一節に、アメリカの心理学者アルバート・メラビアン博士の言葉があります。「人が他人から受ける情報の割合(感情や態度など)の実験結果によると、話す言葉の内容は7%にしかすぎず、残りの93%は顔の表情や声の質、服装、目線、マナー、ヘアースタイルなどで言葉ではない。」 このように、人は話の内容よりも見た目で判断するようです、見た目で全てを判断してしまう鵜呑み世代に忠告したいと思っています。「見た目が9割」と言いますが、その見た目が間違っている場合が多くあります。10割の中の1割で良いので、疑う心を持っていただきたいと思います。私はその「なんでやねん」と疑う心を、辞書にはない言葉で「考疑心」と名付けました。「猜疑心」は恨みを含む言葉ですが、「考疑心」は単純になぜかということを考える言葉であります。

最近のトレンドについていくつかお話しますと、一人旅行が非常に増えているそうです。JTBや日本旅行からの情報ですが、旅行者全体の内30%以上が一人旅行であり、その内の70%は女性だそうです。女性の一人旅行が増えているのは、「なんでやねん」です。

また先日、任天堂の岩田氏が亡くなられましたが、この任天堂のWiiをしたことがある方は、どれ位いらっしゃるでしょうか。5~6年前に流行りましたが、私もWiiはとても面白くて大好きです。Wiiは2兆円を売上げ、6,000億円程の利益を出されたと聞いています。今は色々なゲームが出てきていますが、このWiiのような商品は中々ありません。とにかく試されていない方には、ぜひ一度試していただきたいと思います。ボーリングなどをすると、家の中でも汗をかいてしまうものです。しかしながら、今ではこのようなゲームは、スマホに移行しつつあります。

それから、最近のトレンドと言えば、やはりデパ地下です。特に暑い時期にはデパ地下は涼しくて集客があるようです。昔からありますが、今も圧倒的にデパ地下がトレンドであります。子育てで地方に出て、子供も育ち、やはり都会の便利なところへリターンしているという現状があります。デパートなどのショッピング施設をはじめ、なんといっても医療施設が充実しているため多くの方が都会へ帰って来られているのです。そのような現状から、デパ地下に足を運ぶ人も増えているのではないでしょうか。

そして驚くことに、釣り人口、スキー人口が半減しています。この10年でゴルフ人口も半減になりました。この減少は止まらないのではないかと予測しています。ぜひ皆様も一緒に考えてみてください。

3.「なんでやねん」出版後のその後の「なんでやねん」

「なんでやねん」出版後に浮かびました「なんでやねん」のいくつかをご紹介させていただきます。

  • 桜満開のお花見に敷くシートの色が風景に似合わないブルーシートなのは、なんでやねん。震災の時にブルーシートがよく使われていたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。屋根に乗っていたり、地面に敷かれていたりしましたが、シートにはブルーのイメージがあるのか、全てがブルー一色です。これは一体「なんでやねん」であります。私がお花見にイタリア人をお連れした時、なぜ皆ブルーのシートを使っているのかと聞かれる場面がありました。サクラ満開のお花見で敷くシートの色が、風景に合わないブルーなのは「なんでやねん」ということでしょう。
  • 「7-ELEVEn」の最後の「n」が小文字なのはなんでやねん。ご存知でない方はぜひ見ていただきたいと思います。
  • 玄関のドアは、西洋が内開きなのに日本が外開きなのは、なんでやねん。おそらく日本は玄関が狭いため、内開きであれば靴が邪魔になったりするからではないかと思います。
  • 「13」という数字を嫌うアメリカ人が使うトランプが1~13までなのは、なんでやねん。7並べというゲームは西洋にはないかもしれません。
  • 魚屋で魚の陳列方法が関西では縦に並べて、関東では横に並べるのはなんでやねん。関西は何と言っても尾頭付きが大好きで、頭が上にこないと満足出来ないのかもしれません。
  • ミシュランがフランス料理はともかく、日本料理を格付けするのは、なんでやねん。フランス人に日本の味が分かるのか疑問に思いますが、これによって格付けされて喜ぶお店もあれば、そんなものは要らないと言い張るお店もあります。
  • ソニー生命保険のセールスが男性社員ばかりなのは、なんでやねん。プルデンシャル生命保険など、アメリカ系の保険会社はほとんどが男性社員です。これは一体「なんでやねん」と思い、先日伺ってみました。要するに、社員の引き抜きが多いそうです。前職からのお客様を引き継いで持っていることが、入社の条件だそうです。
  • ゴルフの隠しホールと言うわりには、隠す方が多いのは、なんでやねん。この隠しホールは全体18ホールの内、12ホールもあるのです。隠す方が多いということには、少し疑問を感じます。
  • 沖縄の人に、泳げない人が多いのはなんでやねん。この答えは、はっきりと言えるでしょう。周りに海がありすぎて学校にプールを作らないからです。
  • 一流大学のお受験エリートは、答えが一つの時は強いが、複数に分かれた時に弱いのはなんでやねん。答えが一つなら良いが何通りも答えが出てくると、どれを選んだら良いのか分からなくなる、今の政治のようなものです。
  • 国が買ったら問題になる島や領土も、瀬戸内海の島や北海道の森林などのように、他国の個人が買えば問題にならないのは、なんでやねん。私も広島に自分の船を置いていますが、船を走らせていると、あの島は誰々の、あの島は誰々の所有であると意識することがあります。北海道あたりでは、特に森林を買われている方が多いようです。お金さえあれば売り買いをすることができます。尖閣列島は大きな問題となっていますが、瀬戸内海の島が他国の個人に買われても、問題にならないのは「なんでやねん」ですし、早く対策を考えていただきたいと思っています。
  • 銀行の貸出が、短期貸出より長期の方がレートが低いのは、なんでやねん。昔は長期で借りた方が、金利は高かったものです。今は全く反対になってしまっています。短期(貸し⇒トル)では利息が入りにくく、長期のベタ貸しの方が収益が上がるからでしょう。
  • 日本の個人株式市場の80%を、60歳以上が保有しているのは、なんでやねん。社会保障や年金は高齢者には不可欠ですが、若い人の収入を合わせて考える必要があります。
  • 司法試験が5年以内で3回しか受けられなくなったのは、なんでやねん。弁護士や公認会計士の資格を取ったのに、弁護士事務所や公認会計事務所で働けないのは「なんでやねん」です。やはり、資格をとってから一定期間実務経験をしないといけないそうですが、なぜかしら資格を持っていても就職できず人材が余っているのが現状だそうです。これは深刻な問題だと思います。日本ももっと、国際化してくると深刻な問題と捉えられるのかもしれませんが、現状では何とか会社の総務部にでも勤めさせてもらえないかとお願いする資格所有者までいるようです。
  • 「銀行の中小企業への貸出に、代表者の個人保証を要求しなくなってきたのはなんでやねん。」ここ最近、安倍首相のアベノミクスで一番興味を持ちました発言がこちらでした。上場していない中小企業は、社長は必ず個人保証を押しますし、上場企業でも内容があまり良くない企業であれば個人保証を押すようですが、この1、2年前から個人保証を要求しなくなりました。個人保証をしていると、個人財産を全て最終投げ出さなければいけなかったのですが、今は、こちらから「個人保証を押さなくても良いのですか?」と聞くと、結構ですと強いられなくなったと聞いています。中小企業で次世代に継ぐ場合、なぜ親父の借金を肩代わりして個人保証を押さなければいけないのかと、個人保証が嫌で後を継がないところが多いのも現状です。
  • 海水の温度が1度上がる程、異常気象が加速されるのは、なんでやねん。温暖化の影響もあるようですが、過去何百年も同じような状況が繰り返されているのを見ると、中々真実はつかみにくいようです。
  • 小学1年生のか弱い子供に、大きなランドセルを背負わせるのは、なんでやねん。今ではイオンやニトリまでもが、ランドセルを比較的安価で販売していますが、それでも4、5万のランドセルも未だに売れているそうです。軽いものも出てきていますが、それでもやはり小学1年生にとっては難儀な話でしょう。それに関連し、最近リュックサックを持つ人が増えてきたのは「なんでやねん」です。おそらく、両手がふさがらなくて便利だからではないでしょうか。ただ、日本では最近になって流行ってきていますが、外国では20年前から軽いリュックサックが流行っています。

ということで、私の最近の「なんでやねん」を紹介してきました。やはり、今の現状を「なんでやねん」、「おかしい」と思うことが大事だと思いますし、まだまだお話していないトレンドはたくさんあるかと思います。今の大きな流れをつかんで、それに合った消費者、時代に合った技術経路を考えていかなければなりません。今の時代は、アイデアはすごく良くても中々売れません。売れないアイデアでは意味がないではないか、ということになります。グッドデザイン賞がその例で、受賞した商品はほとんど売れません。つまり、デザインに走りすぎても売れないし、安ければ売れるものではありません。安いけれど、質が良い、そのリーズナブルさが当たったのが、ユニクロであり、ニトリであります。

4.商品が売れるには、それなりの理由がちゃんとあるものだ

(1)横のものを縦にすると売れるのは、「なんでやねん」

ここで弊社商品「シスボックス」をご紹介します。発売30周年を迎え、2個ご購入ごとにファイルをプレゼントするキャンペーンを行っていました。

今から30年前、1985年に作ったので、品番も「SBX-85」と付けているもの、1987年に作ったので、「SBX-87」と付けているもの、その間で作った「SBX-86」があります。この商品は当初デザイン優先で考えたので、型代に費用がかかりました。今となっては、あべのハルカスの形にも似ているように思います。当時、デザイン重視ということで、先日お亡くなりになりました、あの有名なキッコーマンの瓶をデザインされた榮久庵憲司氏にデザインをお願いしましたが、デザイン料は型代と同じ金額である600万円がかかりました。やはり、一流デザイナーに依頼するとこれ位の費用がかかってしまいます。

発売から30年になりますが、ピーク時は年間10億円売れました。今でもテレビドラマを見ていると出てきます。しかしながら100円ショップの登場により、本当によく似たものが市場に安く出てくるようになりました。品質が全く違うことに腹が立った私は、定価700円から900円に値上げをしました。100円のものと比較されるのは面倒なので、それなら値上げをしようと、思い切って実行したのです。しかしながら、売上数量は減りませんでした。当初ダイエーが独断で安くして、半値価格で売ってしまい、大変揉めましたが、かなりの数量を売って下さる得意先様なので困りました。しかしながら、そうなると今度はロフトなどの定価で販売してくださっている専門店様から文句が出ます。そういった時期もございましたが、年間10億円も売れるとそれなりに利益が確保でき、次の開発商品の原資となりました。

この商品は要するに、役所や学校の先生などの職場の机の上に、資料が山積みにされている現状を解決した商品であります。積み上げると、書類を探すことは容易ではありませんが、書類をシスボックスに立てると、探しやすく省スペースにもなります。とにかく「書類を立てれば売れる」という視点で考えられた商品です。基本的には、横のものを縦にした、寝ているものを起こした。これだけのことで大ヒット商品になったのです。誰でも思いつきそうで中々思いつかないことかもしれません。

立てたら売れる商品では、最近は立つバターナイフや立つしゃもじなども出てきています。何にしても寝かせるよりも立たせた方が売れるのでしょう。私も鍋のふたを立てられる良い商品があればと思いますが、もう既にいくつかは出ています。それでも更に、しずくが落ちないなど、もっと良い商品はないかなと思っています。

(2)伸縮自在にしたら売れるのは、「なんでやねん」

伸縮自在は、大きな柱となっています。伸縮自在は必要でない時には小さくなる点が非常に便利で、弊社では、のび~るファイルを開発しました。書類が増えてくると最高11cmまで背幅が伸び、真ん中のファスナーを切るとさらに2cm伸びるというのが弊社のパテントであります。多くの弁護士事務所、不動産業者、警察署などで、のび~るファイルは使用されています。

また5、6年前には、書類立てに仕切りをつけるという発想で、伸縮する蛇腹状のドキュメントスタンドを開発しました。33cm伸び、仕切りにファイルが入る仕様で、弊社ではヒット商品となっています。

(3)薄くすると売れるのは、「なんでやねん」

デザイン学校では、弊社のアルタートケースが使用されています。従来の4~5cmの厚みを3cmにしたというのが、ヒットのポイントであります。たった1cm薄くするだけで売れるようになります。お陰様で画材コーナーは弊社のアルタートケースが定番として占めるようになりました。

(4)おまけが付いたら売れるのは、「なんでやねん」

グリコのように、おまけが付いたら売れる、ということがあります。

(5)原色を使うと売れるのは、「なんでやねん」

色をはっきりさせれば、売れるということもあります。

(6)小さくすると売れるのは、「なんでやねん」

アルバムはLサイズを6枚貼れる大きなアルバムが主流でありましたが、今は小さいアルバムに大切な思い出の写真だけを収容する傾向となっています。大きかったものを小さくすると売れます。

1995年頃のことですが、会社で、「21世紀はデザインの時代」という標語を作ったことがありました。今後はすべての商品がどんどん世の中に溢れてきます。価格が勝負の一つになるにしても、ちょっとデザインの良いものが売れていくということは間違いありません。しかし、デザインというものは急に出来るものではないですし、年数をかけて磨いていく必要があります。同じ一つのスプーンにしても、デザイン一つで売れる、売れないが変わってきます。デザインがちょっと変わることによって売れ方がすごく違ってくるのです。

私どもの製品でデザインを転換して成功したのは、アルバムでした。デザインの中には、サイズ、形、色、機能という要素が入ってくるわけですが、この中のサイズにこだわりました。大きかったものを、小さい"ミニアルバム"にしました。私は、ほとんどの場合、その商品が売れるかどうか予測出来る自信があるのですが、このアルバムは売れないと反対しました。ところが、これが売れたのです。「大より小が売れるのは、なんでやねん」と思いました。

昔のアルバムは、写真のLサイズがちょうど6枚貼れました。私は6枚貼るということしか考えなかったのです。ところが、今の人は小さい台紙に1枚しか貼らない時もあります。たくさん撮っても全部箱か何かにしまっておいて、思い出の最高傑作1枚しか貼らない、そういう時代に変わっていることを、私は知らなかったわけです。最初に開発課の女性がその案を持ってきて、500冊で良いからやらせてくれと提案してきました。でも私は、こんな1枚しか貼れないようなアルバムは、もったいない以外のなにものでもないと思いました。市場では400~500円で6枚貼れる台紙が20枚ついた大判のアルバムが売れている時に、私どもは1,200円の値段で、しかも1枚しか貼れない台紙が10枚ついた小さな型で勝負をしようというわけです。サイズも小さくなるし効率も悪い、でも、そこには「思い出」という、数で計ることなどできない大切なイメージがありました。たくさんのどうでもいい写真よりも、一枚のかけがえのない思い出を貼るという時代に変わっていることに、私は気がつきませんでした。それで「こんなん、売れへん」と言ったのですが、これが売れたのですから大したものです。

デザインについても、サイズの変更ということでは、コクヨさんがB5のノートを横4cm程落として細長くしました。このノートの場合は理由があります。ノートをたくさん集めて調べてみると、ほとんどの人が最後のギリギリまで書いていなかったのです。皆右側を空けたまま改行して行頭に戻っていたのです。これは他社の話ですから、あまり言いたくはありませんが、良い例と思ったので挙げてみました。

「大は小を兼ねる」というのは過去の話になってしまったようです。

(7)高級ウエットタオルにすると売れるのは、「なんでやねん」

お食事の時に使用するウエットティッシュを布のタオルにしました。JA共済だけで、アンパンマンのデザインを入れたものが200万個売れました。

(8)空間を利用すると売れるのは、「なんでやねん」

電話台の置き場所がパソコンの置き場所で取られたので、上の空間を利用するようにしたことで、オフィスで数人に1台が使用されるようになりました。

(9)コラボレーションすると売れるのは、「なんでやねん」

弊社ではアート引越しセンターとのコラボ商品として、自信満々を発売しました。

(10)カバーに表紙を替える機能を付けると売れるのは、「なんでやねん」

アルバム、ノートに1枚表紙を入れることができるポケットを付けPAKKUNという商品を開発しました。簡単に表紙のデザインを替えることができるというのが機能です。京都の金閣寺や清水寺などを入れたA4プリントを挿入することで爆買いのインバウンドに貢献しています。

5.日本でデザインが育たないのは、なんでやねん

日本のデザインは遅れていると私は思います。海外へ行っていろんな商品を見ると、家具とか家庭雑貨みたいなものや電化製品などに関して、次々と新しいものが出てきます。アップルなども、次々とデザイン化した商品を出していますが、お金をかければ売れるから、次の新製品のデザインにまたお金をかけられるのでしょう。

結局、ある程度数が出なければ、デザインに凝ると値段がものすごく高くなってしまいます。デザインが変われば一から型を起こさなければならないので大変です。車ぐらい量が出るならいいのでしょうが、なんでもそうというわけではありません。ある程度量が出ないと高くなってしまいますから、価格が上がることによってまた売れないという状況になってしまいます。売れないとそこで終わりです。

我々のステーショナリーでも、有名なデザイナーが起こしたものは高いから数が出なくて、いつもポシャッてしまうのです。それは安ければどんどん売れるような品で、しかも良いデザインなのに、うまくいかないのです。やっぱりデザインと値段というものが関連してきます。

私どもは、根本的なデザイン、グランドデザインを考える時、一つの大きな白紙の模造紙に、必要性とか、利便性とか、時代の背景を書き込むことによって明確化していきます。

これは商品のデザインだけでなく、政治や社会の根本に関するグランドデザインも同じだと思います。

例えば、団塊の世代が退職していわゆるシルバーの本格的な時代を迎えるという現象について。国としてはどれだけのことをしなければいけないというのを研究して考えているはずですが、それを具体的にビジュアルで見せるというか、政策として見せる必要が生じるわけです。ところが、それが今は全然見えていない。

もっと目に力を入れて自分の感覚でやっていかないと駄目でしょう。要するに耳を塞げば見えてくるというあの感覚です。そこから「なんでやねん」という発想が出てくるのです。

グランドデザインに話を戻すと、それは消費者にはっきり見せなければいけないのです。これがメーカーの誠意の現れなのではないでしょうか。はっきりとグランドデザインを見せないのはごまかしがあるからにほかならないと思います。

6.戦後70年、なんといっても、アメリカなしでは考えられない時代を過ごしてきた我が国、日本、さあこれからどうする!

戦後70年、なんといっても、アメリカなしでは考えられなかった70年でございます。教育方針は、全てアメリカに作ってもらったもので進んできました。黒船がやってきたのもアメリカからですし、サブプライムローンがやってきたのもアメリカから、そして一番のポイントはプラザ合意の金融の自由化でありました。集団的自衛権に関しても今後どのようになっていくかはわかりませんが、最終的に何が大事かと言いますと、エネルギー、石油、食糧の問題であります。石油の埋蔵量は多い順に、サウジアラビア、イラン、イラクの順でありますが、生産量は、サウジアラビア、ロシア、アメリカの順であります。アメリカは石油の生産国であるが輸入をしているのは、「なんでやねん」であります。アメリカは自分の国の石油は、最後の最後まで置いておこうということを考えているのではないでしょうか。

こういったことに、なんでやねんとつっこんでいただきたいと思います。相田みつをさんの詩で、「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる」というものがあります。自分の心の持ち方、考え方で、全てが変わります。この世の中で「こうでなければならない」ということはありません。お正月にお餅を食べ、節分には豆をまかなければいけないということはないのです。過去の風習・常識にとらわれず、自分なりに新たな発想をしていくことが商品開発には役立ちます。「なんでやねん」はひょっとしてあなたの常識を変えるかもしれません。なんでやねん、なんでやねんと一つ考えていただければ幸いに思います。

以上

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