授業の事例紹介

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Pick Up Lesson Vol.85

 

アクティブ・ラーニングの活用方法
①「考える力を育てよう」

 コミュニケーション能力の向上、高校生のアイディアを企業と連携し商品化実現へ

愛知県立豊橋工業高等学校 教諭 小久保寿也

はじめに

 「アクティブ・ラーニング」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。アクティブ・ラーニングのきっかけとなったのは、2012 年8 月28日の中教審(文部科学省中央教育審議会)の答申で初めてその言葉が使われたそうです。その答申によると、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。」と述べられました。
 小中高では、2014 年11 月20 日の下村文部科学大臣から中教審に出した諮問の中に、アクティブ・ラーニングという言葉が初めて使われました。
 その後、学生の「受動的な受講」から「能動的な学修」への転換を促し、受け身ではなく主体的に授業を受けられるようにするために、アクティブ・ラーニングが導入されたのが、今日の背景のようです。
 それとは関係なく、私自身は10 年ほど前に模型部の顧問を任され、集まった部員のコミュニケーション能力の低さを痛感し、改善できるように指導を工夫してきました。その後、他の学生もコミュニケーション能力の低下を感じるようになり、部活動でのノウハウをもとに通常の授業でもその能力を伸ばすように授業展開をしてきました。この過程がアクティブ・ラーニングの実践と一致していることから、今回の報告となりました。

1.学生のコミュニケーション能力不足

 私が豊橋工業高等学校の模型部の顧問となったのが、約10 年前です。当時の模型部は、単にプラモデルを作るだけの部活動でした。物足りなく感じた私は、「せっかく工業高校に入ったのだから、プラモデルを作るのではなく、もっと工業高校らしいものづくりをしよう!」と学生達に呼びかけました。具体的には人を乗せる事ができる乗用の鉄道を作ることを提案しました。その呼びかけに集まってきた面々は、鉄オタと呼ばれる鉄道オタクを中心とする様々な「オタク」集団でした。例をあげると......鉄道、バス、飛行機、アニメ、アイドル、兵器、虫......などなど。
 様々な分野に特化した独特の雰囲気を持った学生達が集まってきました。集まった部員を見ると、それぞれ個人はおとなしいのですが、自己主張はしないのに、納得しないと動かなかったり、違う考えの学生と交わろうとせず小集団を作り、その他の部員を疎んじたりと、部としてまとまらない状態での船出となりました。
 そんな彼らと接して私が強く感じたのは、人と人の関わりが苦手で、コミュニケーション能力が極端に低いと感じたのでした。

 当時の部員の特徴をあげると......
 ・人の目を見て話せない。
 ・無口であるが、自分の好きなことは何時間でも話すことができる。
 ・早口で声が小さい。
 ・気に入った仲間としかコミュニケーションを持たない。
 ・自分以外の価値観を受け入れない。
 ・人の話が聞けない。(聞いているふりをして、実は聞いていない。)
 ・頑固で融通が利かない。

 まとまらない部員を少しでも前進させるために、少人数のチームをこちらで決めて、仕事分担をして作業にあたってもらいました。最初はうまくいかないのですが、ものづくりを通して、何度も試行錯誤を繰り返すうちにチームとしてのまとまりが出るようになりました。結論から言うと、彼らはコミュニケーション能力が低いのではなく、他を排除して壁を作って避けてきたことに原因があると気付きました。
 この状況が次第に改善したのは、部活動という集団から逃げられない状況の中で、自然にコミュニケーション能力が高まったと考えています。そんな彼らとものづくりを進めていくと、オタクならではの知識力と集中力を発揮し、期待以上の素晴らしい結果を出してくれました。
 今まで、「オタク」としてクラスの異端児扱いをされていましたが、そんな彼らがものづくり技術者としての潜在能力の高さを発揮したのです!

「オタク」が持つ技術者としての素養
 ・他を寄せ付けない、圧倒的な知識量
  (好きな分野のことは何でも知っている。)
 ・尋常ではない集中力
 ・好きなものに対する拘りが非常に強く、妥協をしない。

 これらの素養を発揮して、当初の私の予想を遙かに超える素晴らしい鉄道が完成したのです。わずか2 年間で、機関車・客車・線路・踏切・切符販売機などを完成させ、広く一般の人に乗ってもらう機会を得ました。

 校内の部活動では、ものづくりを通して、部員同士のコミュニケーション能力が高まったのですが、完成した鉄道を学校外へ持ち出して、一般の人に体験してもらうと、子供からお年寄りまで幅広い年齢層と接することになります。さすがに、部活動で高まったコミュニケーション能力も、このような状況ではまだまだ未熟です。しかし、以前の経験から何度も繰り返すうちに足りない部分も自然に高まることを期待して任せることにしました。

 予想通り、当初は小学生相手に難しい単語を並べて自分の知識を披露していたのですが、子供相手では伝わらないことに気付き、できるだけわかりやすい言葉で説明したり、わかりやすいイラストを作るなどして工夫をするようになり、小さな子供と話すときは、子供の目線に合わせて話をするなどの、配慮も見られるまでに成長することができました。
 そして、模型部はものづくりの進化をしつつ、現在でも地域のイベントなどに呼ばれ、「豊橋工業高校模型部のミニ鉄道」として親しまれています。

2.「考える力を育てよう」をテーマに授業展開

 豊橋工業高等学校では、卒業後就職を希望する学生が多いのですが、近年就職試験の面接で落ちてしまうケースが年々増えてきました。その原因の多くは、コミュニケーション能力不足であったと、企業側から指摘されます。そこで、模型部で培った経験を元に通常授業でコミュニケーション能力を高める授業をはじめることにしました。実施教科は「課題研究」です。テーマとして、「考える力を育てよう」にしました。
 授業内容は、毎回自分の考えてきたアイディアを班員の前で発表して、そのアイディアが班員にうまく伝わるかを試す授業です。内容が伝わった場合は、班員で更に良い点と悪い点を話し合い、更に改良を加えていくといった授業展開をしています。

 課題研究「考える力を育てよう」の授業展開

 ・毎回1 つ以上のアイディアを考えてくること。発表の際、話だけでは伝わらない場合が多いので、発表を工夫すること。

 ・考えてきたアイディアを、班員の前で発表をする。発表を聞いた班員は、アイディアに対して全員1 つ以上の質問や、意見を述べる。

 ・インターネットを検索して、同様のアイディアが存在するのかを調査する。

 上記の方法で、毎回授業を行っています。学生達は最初のうち、毎回余裕でアイディアを考えてきます。しかし、一学期も終盤になるとアイディアのネタが尽きて苦しそうになってきます。それでも、毎回続けていると苦しみながらも、素晴らしいアイディアが出てくるのです。ただ、教師側も数多く出てくるアイディアの中から「これはいい!」と思うものを見抜く力を要求されるので、私自身も考える力を要求されます。これはまさに、冒頭の中教審の答申にあったように「......教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し......」という部分に当てはまることになります。
 この授業の利点は、学生自身が自分の考えをいかに伝えるかを、自ら工夫することです。毎回人前で発表しているので、相手の表情や動きなどでその様子をくみ取る力がつきます。また、他人の考えに対して自分の意見を求められるので今までのような受け身の授業ではなく主体的な授業となり、「能動的な学修」(アクティブ・ラーニング)へとつながるのです。
 授業の中で検討したアイディアは、班員の中でのみ話し合っているので、外部から評価されません。そこで、様々なアイディアコンテストに参加することにより、自分たちの考えたアイディアを評価してもらうことにしました。当初は、豊橋市内のコンテストに参加していましたが、全国大会も数多くあるので、他の大会にも参加することにしました。これらの大会はいずれも一次審査は書類審査であり、たとえアイディアの内容が優れていても、書類で伝わらなければ、そこで終わりとなってしまいます。2学期の授業内容は、文章表現を中心とした応募書類の作成です。完成した書類を他の班員に見せて内容が伝わるのか、アイディアの説明は適切かなど、校正を繰り返します。書類審査を通過するとプレゼンテーション審査となるので、書類の完成後はプレゼンテーションソフトによるファイルの制作となります。私はこのプレゼンテーション用ファイルの制作が一番重要であると思っていますので、学生達にも力を入れてもらいます。

 豊橋工業高等学校の主な参加コンテスト
  大阪商業大学・毎日新聞社主催 ・全国高等学校ビジネスアイディア甲子園
  豊橋市主催       ・高校生技術アイデア賞
  日本政策金融公庫主催  ・高校生ビジネスプラン・グランプリ

 過去のアイディアコンテスト大会の動画などを見ると、ほとんどがイラストで伝えていることが多いのです。これでは実現性に対しての説得力が足りないと感じていたので、私たちの発表は試作品を作り、アイディアの説明は実演を行うことで、アイディアの説得力を高める工夫をします。そのために夏休みなどの長期休暇を利用して試作品の製作を進めています。
 以上のように1年かけてアイディアを考え、試作品を作り、応募用の資料を作り、発表用のプレゼンテーションファイルを作るまでの一連の経験を通して、学生達の「伝える力」、「見せる力」、そして「考える力」が高まるようにしています。

 全国高等学校ビジネスアイディア甲子園(大阪商業大学・毎日新聞社主催)での結果

 平成24 年(初参加)

ゴミ圧縮装置「吸ってQ」が、審査員特別賞を受賞する。

 平成25 年

「BBQを便利にするアイデア」が、グランプリを受賞する。
地元企業と協力して、風に飛ばされにくい皿「エアロディッシュ」として商品化される

 平成26 年

「エアロディッシュ」の姉妹アイディア「フンバルンバ」が、準グランプリを受賞する。

 平成27 年

衣替えを簡単に済ませる家具、「四季ファニチャー」が、グランプリを受賞する。同時に、「テーブル内蔵型(紙)神ナプキン」が審査員特別賞を受賞する。

3.高校生のアイディアを企業と連携し商品化へ

 最初に学生のアイディアが商品化されたのは、平成25 年に全国高等学校ビジネスアイディア甲子園でグランプリとなったアイディアです。
 アイディアの内容は、屋外でバーベキューをしているとき、風が吹いて紙皿が飛んでしまった経験をもとに、風を受けてもお皿が飛びにくい形状にするアイディアです。誰もが経験したことがある日常の困ったことを解決するアイディアとして、多くの人の共感を得られ、試作品の実験動画を見せることにより、実現性の高さを実感してもらえました。その後、グランプリに選ばれたことを掲載した新聞記事を見て、豊橋市が商品化に向けての支援要請を、株式会社サイエンスクリエイトへ依頼したことが商品化へのきっかけとなりました。この会社は豊橋市と企業との第三セクターであり、産学連携を中心とした事業展開をしており、そこから大三紙業株式会社へと繋がったのです。同時にテレビ取材も実施され、更に商品化に向けての拍車がかかりました。このアイディアは「エアロディッシュ」という商品として店頭に並びました。

 次のアイディアの商品化は、足で操作する専用の扇風機フットfan「イエティ」です。このアイディアは日常生活で、扇風機のスイッチを足で押したことを親に怒られたのがきっかけで、足でスイッチを押すことを前提とした扇風機を提案しました。皆さんも一度は経験したことがあるのではないでしょうか?そんな日常の一コマを取り上げ、アイディアにつなげる学生の発想は常に驚かされます。私自身とてもよいアイディアであると思ったのですが、コンテストでは残念ながら上位入賞にはなりませんでした。やはり、行儀悪いイメージが審査に影響してしまったのでしょうか・・・
 アイディアの商品化までたどり着くには、コンテストで優勝しても実現はしません。ほとんどの場合、コンテストで表彰してもらいそれで終わりとなります。しかし、私たち豊橋工業高等学校の提案するアイディアは、製品化を前提に考えているので、実現できないような空想のアイディアではありません。そのことを証明するのが私の強い思いなのです。
 アイディアを商品化するために、模型部の顧問をしているときからアイディアコンテストに参加しており、その結果を持って、企業側に高校生のアイディアの商品化を相談していました。しかし、残念ながら高校生を相手に真剣に取り合っていただける企業には巡り会えない状況が毎年続いていました。そのような中「エアロディッシュ」が商品化され、その突破口が開かれました。高校生でも商品化できる!それは私にとっても、学生達にとっても大きな自信と誇りに繋がりました。後輩の学生達も先輩に背中を押されるように商品化へ進むことができました。扇風機のアイディアも必ずメーカーに受け入れられて商品化できると意気込みました。しかし、現実はそれほど甘くはなく、多くのメーカーからお断りされることとなりました。そのような中、株式会社山善は開発の担当者様に前向きに話を聞いていただくことができました。高校生が企業の人たちの前で自分のアイディアを披露する場を設定してもらえたのです。高校生のプレゼンテーションは企業側に通じ、商品化を前提に開発をする約束までたどり着けました。ただ、このままのアイディアでは商品化は難しいと判断され、改善点を挙げてもらいました。
 担当した学生は卒業を迎え後輩が引き継ぐこととなり、2年目は後輩が引き継ぎ、改善点を克服した新しい扇風機を提案することになりました。
 この提案で、株式会社山善からは商品化へ向けて更に前進することができました。

扇風機の商品化までの流れ

 ①平成26 年度(株)山善へ向けて、フットfan「イエティ」の試作品を製作し企業側へプレゼンテーションを実施。問題点の指摘を受ける。


写真:イエティ試作機

 ②平成27 年度(株)山善へ、足で操作する扇風機「Kick Me」の試作品を製作し、再提案を行う。


写真:Kick Me 試作機

 ③(株)山善が商品化に向けて開発をはじめる。商品開発部が高校生のアイディアを取り入れた試作品を作製する。数回に渡り、機能やデザインについて、高校生を交えて話し合いを行う。

 ④(株)山善の新商品商談会にて展示、バイヤーとの契約が一定数に達したので商品化が決定する。

 ⑤平成28 年春に(株)山善の新商品として扇風機のラインナップに並び、店頭販売が開始され、ホームセンターや家電販売店の店頭に置かれ現在に至る。

 上記の経緯を経て商品化となりました。


写真:(株)山善カタログより

おわりに

 私たちは長年の努力の甲斐あって、企業側と接触することができ商品化するところまで来ることができました。まだまだ、製造業界では高校生をビジネスパートナーとして見てくれません。アイディアを持ちかけると聞いてはくれますが、逆にアドバイスをしてくれて「今後に期待します。」と、体よく追い返されてしまうのが現状です。高校生がいっしょに製品開発をしたいと持ちかけても、前例がないと断られることがほとんどなのです。しかし、扇風機の商品化により状況が変わりました。私たちが達成した商品化への道のりが、今後の事例となり、製造メーカーの認識が変わり、多くの高校生アイディアが商品化されることを期待します。