授業の事例紹介
高校における実践報告
「来年からできる! グローバルな商業の授業 ~新科目「観光ビジネス」の先行実践~」
Pick Up Lesson Vol.95
高校における実践報告
来年からできる! グローバルな商業の授業 ~新科目「観光ビジネス」の先行実践~
京都府立京都すばる高等学校 小川 建治 氏
1 学校紹介
本校は「京都府立商業高等学校」として1985年に開校。2003年に情報に関する学科の設置に伴い「京都すばる高等学校」に校名変更した。今年度4月に学科改編を行い、1年生は起業創造科・企画科・情報科学科、2年生と3年生は会計科・企画科・ビジネス探求科・情報科学科という編成になっている。
また、今年度より、文部科学省「地域との連携による高等学校教育改革推進事業(プロフェッショナル型)」の指定を受けている。
2 新学科の取り組み
起業創造科は、会計とマネジメント分野の学びをベースに、地域課題の解決を通してアントレプレナーシップを育てることを目標としている。1学期に、簿記の授業で伏見大手筋商店街へのフィールドワークを行ったほか、夏休みには島根県雲南市で地域活性化の取り組みについて学んだ。企画科ではマーケティング分野の学びをベースに、観光やグローバルに関する授業を展開する予定で、本日は先行的に実践している2・3年生の企画科やビジネス探求科の授業について報告する。
3 授業実践
(1)台北市立士林高級商業職業学校(台湾)との共同商品開発・販売実習
このプロジェクトには、本校企画科のほか、京都府立網野高等学校企画経営科・京都府立木津高等学校情報企画科も参加した。
本校では3年生の課題研究でこの内容に取り組んだ。概要とスケジュールは次の通りである。
販売商品は、京都府北部の網野高校、中部の京都すばる高校、南部の木津高校から、それぞれの地元の特長を生かしたものや地元企業と連携して開発したものを選んだ。士林高級商業職業学校(以下、士林高商)も、地元企業と共同開発したコーヒー豆を販売した。当初は日本と台湾でやり取りをしながら共同で商品開発を行う計画だったが、時間的な制約等から、それぞれ商品を持ち寄り、パッケージやPOPのデザインで協力していくこととなった。
台湾の新年度に合わせ、9月から月1回程度のWEB会議を行い、お互いの商品の紹介をしたり、台湾で売る時の商品名や価格、パッケージデザイン等について意見交換を行ったりした。2月11日~ 13日に2泊3日で台湾を訪れ、販売実習のほか、士林高商の授業体験や台北市内の班別研修等を行った。
士林高商はたいへん積極的・友好的で、2月の販売実習までだけでなく、実習後にも振り返りのWEB会議を行い、3月には本校を訪問して共に販売実習をした生徒同士が再会する機会を持つことができた。
販売実習の結果としては、損失が出てしまった商品もあり、成功とは言えなかった。台湾の人々のニーズをしっかりと分析し、商品選定やパッケージ、価格設定に生かすことが求められる。また、台湾では「試食」「試飲」が欠かせないことも分かった。
帰国後の生徒へのアンケートでは、それらの課題に気付いたことも含め、多くの学びがあったことが読み取れる。
アンケートの自由記述では、次のような回答があった。
・WEB会議では緊張して話せなかった英語も、実習の途中から積極的に話しかけられるようになった。英語力が向上したとはあまり思わないけれど、コミュニケーションを取ろうとする気持ちが持てるようになって、自信もついた。販売では、士林の人も含めて、全員がそれぞれ案を出したり手伝ったりして、苦手なところを補い合えたと思う。
・私たちの当たり前が当たり前ではない、ということを何回も感じました。でも、台湾と日本が似ているなと思うところもありました。もっと台湾のことを知りたくなりました。
・士林の生徒がどんどんチラシを配ってくれていたが、受け取ってもらえないとその都度落ち込んで「どうしたらもらってくれるだろう」「渡し方を変えてみようか」と話していた。自分は日本で販売実習を何度もしていて、チラシは受け取ってもらえなくて当たり前だと思っているところがあったので、それを見て反省した。
・せっかく商品の魅力を分かっているのにうまく説明できず悔しかった。言葉が通じないことはこんなにも不安なんだと実感した。そのぶん「何としても伝えたい!」と思ったし、真剣に聞いてくれると嬉しかった。日本に来る外国人の気持ちが分かった。
この販売実習に参加した3名から発表
【引率教員 木津高等学校 鹿俣拓也先生】
木津は宇治茶の産地なので、それを商品として持って行った。結果的に完売することができたが、その理由は何かと考えると、やはり台湾が「親日」であることが大きかった。士林高商を訪問した時の歓迎ぶり、班別研 修でのもてなしなど、果たして私たちが日本で、外国の高校生を迎えて交流するときに同じことができるだろうかと思った。観光ビジネスが商業科目として始まるが、ホスピタリティが育まれるような授業展開が求められ ると強く感じている。
【参加生徒(現:大阪商業大学総合経営学部1回生)平口夢菜さん】
私は高校での学びで、身の回りにある何気ない広告や売り方にも注目するようになった。その集大成にあたるのが、台湾での実習だったと思う。言葉が通じず、WEB会議や実習でもうまく伝えられないことが多かったが、そこでさらに経営学を深く学びたいという思いが生まれた。これから大学でもゼミやフィールドワークを通じて勉強していきたい。
【参加生徒(現:龍谷大学経営学部1回生)田原蒼嗣さん】
台湾で交流したのが「広告設計科」というデザインを専攻する学科の生徒だったので、一緒に販売実習をすると、こんな視点や表現方法があったのかと驚くことが多かった。その経験を生かして、いま大学のビジネスプ ランコンテストに、他の大学の人と合同チームを組んで応募しようと考えている。また今回の実習がきっかけで、大学の外国語の授業では中国語を選択している。
このほかにも、網野高校の生徒(参加当時2年生)が、国際系の大学への進学を希望していると話していた。これも実習からつながったことの一つではないかと考えている。
(2)体験型京都ツアーの企画
ビジネス探求科「実用英会話」(学校設定科目)の中で行った。この授業は商業科目であるが、英語科教員やALTも担当しているとても個性的で恵まれた授業である。内容やスケジュールは以下の通り。
スケジュールに関しては、もっと各部分で時間をかけて取り組む方がよいと感じた。行程表は一度ワックジャパンさんにチェックしていただいたが、せっかく指摘していただいた内容も、時間が足りずに改善しきれない部分があった。
配付資料(ツアープランの見本など)は、私(商業科)が作ったものを英語科の教員が英訳した。英語でのプレゼンにあたっては、ALTが原稿や発音の指導をし、教科横断型の授業を展開できた。
評価は、教員からの評価だけでなく、生徒相互の評価や企業の社員からの評価も取り入れた。
(3)訪日外国人の観光分散化の企画
本校の近くにある伏見稲荷大社では、外国人参拝客が急増し、商店等が賑わう一方で、交通混雑や放置ゴミなど、様々な問題が発生している。これらの課題解決のため、昼間の時間帯に集中する外国人に対し、早朝に訪問してもらうよう促したり、伏見区内の別の名所を案内したりすることで、混雑の緩和を図る研究を行っている。
研究にあたり、現地調査をしたり、大学の先生からのアドバイスをいただいたりしたほか、NTTドコモの「モバイル空間統計」を活用し、観光客の属性を分析する活動も行った。
現在は、SNSで早朝参拝を促す情報を発信しながら、伏見区内の名所を紹介するパンフレットを作成している。そしてそれらの取り組みを行政(伏見区役所深草支所)のまちづくり会議で報告・提案させていただいた。
4 「グローバルな商業の授業」のはじめかた
「グローバルな商業」だけでなく、新たに取り組みを始めるとき、普段から意識していることは、次の3点である。
①「こういうことをしてみたい」とあちこちで口に出す 校内(生徒や同僚、管理職)だけでなく、校外にも言いに行ってみる。
私の場合は他校の先生や行政(京都府・京都市・伏見区)、企業など。
②とりあえず行ってみる
大学や企業、セミナーなど、そこでの名刺交換から何かが始まるときがある。
③小さくはじめる
今年度、士林高商との相互ホームステイの計画があり、当初士林高商からは「10人程度」という話があったが、「まずは3人から...」と答えた。
自分でコントロールできる範囲から始めて、周囲の協力を得ながら、徐々に関係者を増やしていけば良いのではないか。
これら、自分自身の「はじめかた」「やりかた」が正しいのかは分からない。
しかし、どの実践も周りの方々に助けられながら、私でもなんとかやってこられた内容なので、今回の実践報告を聞いて「自分にもできそう」と思っていただけると嬉しい。
5 まとめ
新学習指導要領の「観光ビジネス」の項目のうち、今回の実践と関わっているのは「観光ビジネスにおけるホスピタリティの概念と重要性」「観光の振興と地域社会におけるまちづくりとが連携することの意義」「観 光需要や観光目的に対応したまちづくりについて」の3点である。新科目の授業内容の組み立てに際しては、他の項目も含めてバランスよく構成することに加え、各校の地域特性や実情に合わせた内容が入ると面白いと思う。それを共有することで、特徴ある新科目が全国に広がっていくのではないか。