「『観光』から『関係』へ ポストコロナの地域のカタチ!」 | 講演会レポート | 大阪商業大学 総合交流センター

講演会レポート

「『観光』から『関係』へ ポストコロナの地域のカタチ!」

オダギリ サトシ氏写真 .jpg

株式会社インプリージョン
代表取締役
オダギリ サトシ

1.はじめに

 「『観光』から『関係』へ ポストコロナの地域のカタチ!」というテーマで今からお話をさせていただきたいと思いますが、まずは私のこと、私の会社のことをお話しさせていただきたいと思います。
vol.31_2.jpg まず、私、および私の会社がやっていることは3つあります。1つ目は、大阪で観光客を呼び込む商売をしています。2001年に、まだサラリーマンをしていたとき、副業のような形でやり始めました。そこから2002年に会社を辞めて独立して、大阪に観光客を呼ぶということをやり始めて、今年でちょうど20年経ちました。具体的には観光の企画をする会社で「大阪のこんなところが楽しいよ」「こんなところが魅力的だよ」というのをお客さんに合わせてアレンジして、旅行商品(ツアー企画)をつくるということをやっています。それらの商品を旅行会社さんに卸して、旅行会社さんが商品として販売したり、宿泊施設さんに卸して、宿泊施設さんが宿泊プランとして販売したり、あるいは、鉄道会社さんと一緒に組んで、「大阪へ来よう」キャンペーンみたいなことをして、コロナ前の2016年~ 2019年は毎年50万人ぐらいが大阪に来ていました。コロナの影響を受けて観光客がかなり減りましたが、最近になってだいぶん回復してきました。
 そういう仕事を長いことやっていますと、途中から大阪の観光まちづくり、大阪に観光客を呼び込むノウハウを教えてほしいと言われることが多くなり、日本中の自治体や観光協会からお声がけをいただき、今回のような1回だけの講演に行くときもありますし、観光協会の顧問として所属しているところやアドバイザーとして定期的に通っているところもあります。それから日本中の自治体、観光協会、宿泊施設なんかにコンサルをするというような仕事も10年前ぐらいからやっています。ある程度実績が付いてきて、仕事として増えてきたのは、ここ6年、7年ぐらい前からです。コロナの影響で1つ目の仕事の方がちょっと寂しくなっても、この2つ目の仕事があったので、かろうじて元気にやってこれました。
 3つ目は、日本中に友だちのいるふるさとをつくるという仕事をしています。これは観光に近いのですが、ちょっと切り口が違っていて、都市の人とローカルの人をマッチングさせるサービスをやっています。ローカルは人口がどんどん減少し、仕事の担い手、祭りの担い手、農業の担い手が全然いないという課題があり、そこと単なる旅行ではなくて、もう少し深く地域とつながりたいと思っている都市に住んでいる人を繋げるサービスです。そのサービスを提供するため、2019年にもうひとつ、ふるさとシェアリングという別会社をつくりました。
 取引先もいろいろありますが、主要な取引先はやはり旅行会社さんです。その他には、大阪のホテルと宿泊プランを考えたりしています。どういうホテルをつくったらいいかという提案をして、今、どんどん新しくできているホテルのいくつかは、うちでプランをさせていただいているものもあります。いろんな自治体からもお声がけいただいており、実は、昨日まで山口県にいました。山口県の観光協会は顧問というかたちで、月1回、社員会議に出ています。その前は、1週間高知県にいて、高知県の観光のお手伝いもしています。
  vol.31_3.jpg このような仕事を長いことやっていますとそれなりに賞もいただいています。インバウンドがたくさん来ているときには、インバウンドの表彰も受けました。近畿経済産業局の「はなやかKANSAI インバウンド大賞」特別賞を受賞しました。それも今は、インバウンドがほぼゼロになっている状態ですので、このとき受賞したサービスはもうやめてしまっていて、今は何も誇るようなものはないですが、当時受賞しました。それからグッドデザイン賞も受賞しました。私たちは観光という形のないものをつくっています。形がないのに、グッドデザインって何のことだと思うかもしれませんが、実は、グッドデザイン賞は最近、そういう形のない、取り組み自体が社会に対してデザインされているということで、表彰される傾向があります。グッドデザイン賞にエントリーしたことある方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、毎年、大賞とベスト100が選ばれますが、ここに入るのが名誉なのです。うちは残念ながら、そこには入れなかったですが、その下に、80人の審査員が、100には入れなかったけれど「これが一番押しや」というのを1人1個選んで、うちはそれに選んでいただいたので、これはうれしかったです。それから、われわれの業界の賞「ツーリズムアワード」があります。うちでつくってJTBさんで販売している商品が「ツーリズムアワード2019」で入賞しました。この商品は、今でも販売しています。まちづくりもいろいろやっていまして、都市計画学会さんのほうで関西まちづくり大賞に選んでいただいて、受賞をさせていただきました。こんなことをやっている人間です。
 今、最後、「まちづくり」という言葉が出てきましたけれども、「オダギリさんって、まちづくりなの? ツーリズムじゃないの?」と聞かれることが多いです。確かに私はツーリズムというもので飯を食べてはいますが、ツーリズムは、あくまでも、まちづくりのための手段です。私がやりたいことは、地域をよくしたいというようなまちづくりをしたいと思っていて、そのまちづくりの手法、手段としてツーリズムということを取り入れてやっています。

2.地域のファンを作る

vol.31_4.jpg

 うちの会社の名前、インプリージョンという会社です。インプリージョンって、英語でもなければ、ドイツ語でもないので、「何やねん」というふうに思われるのですが、improveという「改良、改善、よくする、価値を高める」という単語と、地方をよくしたいという思いを持って「地域」というregionという言葉を組み合わせて会社名を付けました。インプリージョンは私がつくった造語ですから大体間違われます。領収書もなかなかスムーズに書いてもらった経験がありません。私は地域を観光の視点で眺め、編集するというふうに言っていますが、都市計画ができるわけでもない、デベロッパーでもない、ゼネコンでもないので、町を新しくつくるということはやったことがありません。都市計画も建築設計もやったことがなければ、建てたこともない、開発もやったことないので、私自身は、ハードを新しくつくるということはできない人間です。では何をしているのかというと、既存のある町を「観光的に見る」と言っていますが、見方を変えるということで、今まで見向きもされなかったものに、こういうふうな楽しみ方があるというところを見いだして伝える、それを私たちは、「編集する」と言っています。例えば、どこかの商店街のおまんじゅう屋さんについて、おばあちゃんがやっていて地元の人は慣れて日常となりあんまり価値を感じてないかもしれないけれども、よそから来た人に食べてもらったら「おばあちゃんの味」ということでめちゃくちゃ売れますよというふうにして、観光客に行ってもらうように仕掛ける、そんなことをしています。それが地域を観光的視点で見て、編集するということです。そういうことをやって旅行商品にしています。私自身は価値を高めるとよく言っていますが、価値を高めるとは「何やねん」って、難しいです。人それぞれ価値が高まるというのは感じ方が違うので、私たちは、お客さん側が「あそこ、いいよね」というふうに「行きたい、住みたい、人に伝えたい、好き」というような気持ちの価値を高めようと定義しています。それに対して逆に、定量的な価値って、数字で測れます。「何人来た」とか、「いくら売り上げが上がった」、「駅の昇降客数が何人」、「家賃がいくら」、「固定資産税がいくら」みたいな、数字で測れる価値のことです。私は、これを短期的に狙いに行くのはやめておこうと考えています。人が来るということだけならば、イベントでもやれば比較的人は簡単に集まります。ただそれが終わったら、もう来なくなってしまいます。例えば、コンサートをやるというイベントを開催したときに来てくれる人は、コンサートで歌っている人間が好きなのであって、この町を好きになるわけではありません。ですので、私たちは人数とか、小手先のテクニックで「パッ」っと数字を上げられるようなことを目指すのではなくて、「好きや」とか、「住みたい」とか、「行きたい」という気持ちを持つ人を増やしていこうということをずっと心がけてきました。vol.31_5.jpgそれが、一言で言うと「地域のファンを作る」ということです。「定性的な価値を高めたいんや」とかそんなことをうちでバイトしてくれるスタッフに言っても伝わらないです。「社長の思いがこうや」とか言っても全然伝わらないので、うちでバイトしてくれるスタッフには、「地域のファンを作る」、大阪ですから「大阪のファンを作る」と言っています。大阪のファンを作るために、お客さんに接客してほしいということを指導しています。昨日、私がコンサルで山口県の周南市へ行っていたときは周南市のファンを作るということをずっと主張しています。これは創業以来変わりません。20年前、自分で創業したときに、自分の住んでいる大阪の街をもっと多くの人に好きになってもらいたいという思いから起業しました。やっていることはいろいろ変わっていますが、その思いは変わりません。手段はいろいろですが、目指しているところとしては、地域のファンを作るということをずっとやってきています。
 次に、私はまちづくりの人間なので、これから町のことをお話ししていきます。世の中のマーケットがこう変わっていくのではないか、だから、町はこう変わっていくべきというような話をここからさせていただくわけですが、この読みが当たるか当たらないかは正直分かりません。分かりませんけれど、こうなるのではないかと推測を立ててそれに対応するビジネスをやっていったら良いというビジネスチャンスの話でもあります。ただ、それが当たるかどうか分かりませんし、絶対当たるって確信を持っていたら、私がもっと投資しています。当たる可能性もあると思って、いろいろ自分のビジネスの中に取り込んで、今のうちに種をまいていこうということはやっています。
 コロナ禍を通じて、人々の意識に何が起こったのかというようなことをちょっと考えていきたいと思います。コロナ禍、もうかれこれ、3年近く経とうとしています。このマスクしかり、そして、この謎のソーシャルディスタンスしかり。この人数だったら、以前はもっと狭い部屋でやっていたはずです。こんなに広々と、ひとりひとり離れて、前後も席をずらしてみたいな感じになって、いろんなことが変わってきました。そのいろんなことが変わっているのは、それぞれ一人一人の気持ちが変わっているからです。私はどっちも経験したことがないので想像ですけれど、明治維新のときって日本がゴロッと変わった、そして、第二次世界大戦のとき、戦後、日本がガラッっと変わった。これぐらい、コロナ後もガラッっと変わるのではないかと実は思っていたりします。
 平成のときに大きな震災が2回ありました。その2回の震災のあとも社会の価値観というのは大きく変わりました。そういった大きな出来事のあと、社会は変わるというふうに感じています。私は、阪神大震災と東北の震災の両方を知っています。そして今、私は、福島県の3カ所の自治体のコンサルをしているので、福島県にはずっと行っています。私は阪神大震災を経験して、被災して祖母の家もいとこの家も倒壊した経験をしていたので、何となく震災被害は分かっているつもりでした。しかし、福島へ行くと、もちろん津波が来たというのも強烈なインパクトでしたが、何よりも原発で家に帰れないという人がいたり、原発で例えば、農業をやっていた人が収穫した野菜を売れない、漁業をやっていた人が釣った魚を売れない、もう阪神大震災をはるかにしのぐ、大きな世の中のインパクトがあって、そのインパクトによって、福島の人たちの気持ちがガラッっと変わっているらしいです。昔とは考え方が変わったとみんな言っています。ですので、コロナもそういうふうになるのではないかと思っています。
 それでは、この2年半でどのような変化があったかをちょっと書いてもらえませんか。みんな「面倒くさい」と言っているこのマスクですが、私、実は、超お気に入りで、今後もずっとしていこうと思っています。何と言っても「ひげをそらなくてええやん」と思っています。「マスク嫌や」って結構言っている人もいますが、「いや、このマスクってもっと定着してほしいなあ」と思っていたりする自分もいます。
 電車に乗るのが嫌になったという人が結構います。田舎だったらみんな車暮らしですが、都会の人でも、電車でちょっと行くの嫌だから車で行くというような人も増えました。それから、公園に行く頻度が増えたというような人もいます。公園へ行き出すと、公園の気持ちよさを知ります。ほかにも、釣りを始めたという人も結構います。誰もいない海に行き始めたら釣りが楽しくなったとかいう人がいたり、それからキャンプを始めたという人も多いです。グランピングとかもしかりです。われわれ観光業界でいうと、他の人と会わないホテルというのがあります。食事も部屋で、以前だったらフロントでやっていたチェックインも部屋でする。あるいは、民泊みたいな一棟貸しとか、そういうのが好まれる傾向が出てきたと思っています。

3.働く場所の自由化

vol.31_6.jpg

 これは総務省の令和2年のデータですけれども、働く場所の自由というのが生まれてきました。テレワークを導入が58%、9割の企業が在宅勤務を推奨していました。実は、うちの奥さん、完全在宅勤務です。家で仕事しています。この間、オンラインミーティングで、「7月1日から東京本社に勤務することになりました小田切です」って挨拶をしていました。出勤しているときは大阪支社に出勤していましたが、フルリモートになって、大阪に住んで、家で仕事をしているのですが、所属が今、東京本社です。また、仲良くしているNTTの友達がいますが、彼も東京勤務で、家は奈良です。元々は東京に住んでいて、リモートワークになって、奈良に引っ越してきたというケースもあったり、私の友達の子どもがこの4月に社会人になって、東京の会社に就職しました。しばらくの間研修は東京へ行っていましたが、また大阪の家に帰ってきていました。結局リモートワークになっているので、最初の研修のときはホテルに住んで、研修を東京で受けて、そのあとは、東京で働いているのですが、仕事は大阪の家でしているというような人が増えてきています。私の会社も、事務所の面積を半分にしました。ビルのワンフロアを借りていましたが、ワンフロアを借りていてももったいないので、半分にしました。それから出勤してくる社員も減らしています。常時出勤、絶対毎日いるというスタッフは、今は3人ぐらいです。あとは、パラパラしか来ません。うちの会社の場合は、フルリモートというよりも、時々は来ています。出力をしに来たり、お金の精算に来ています。時々は会社に来ているけれども、それでも、もう全然顔を合わせてないスタッフもいます。
  vol.31_7.jpg働く場所の自由という考え方は、コロナで新しく生まれました。これは令和3年の内閣府の統計です。家族と過ごす時間を増やしたいという人が増えてきています。こういう統計というのは、最終的に導き出したい答えに応じて質問をしているという部分もあるとは思いますので、多少ミスリードされているかもしれません。さらに、私に至っては、今日、今、しゃべりたいことを言うために、それに合ったデータを総務省とか内閣府から取ってきているので、本物の生データに皆さんは当たっていただきたいとは思います。どこでも働けるようになった。それにより、家族と過ごしたいと思うようになった。世の中の人の、全員とは思ってないですが、コロナを経て、多くの人にこういう気持ちの変化が出てきたのではないかと仮定しています。少なくとも、うちの会社で働いている従業員のみんなは「今まで働きすぎやった」と確実に思っていると思います。「あのおっさんのせいで、めっちゃ残業してた」って思っていると思います。うちの従業員は、リモートワークになって働く時間は確実に減っていると思います。では、働く時間が減ったことで売り上げは下がったかというと(もちろん、大阪への観光集客に関してはめっちゃ下がっていますけれど)そうでもないとも思っています。「今まで働きすぎやったなあ」、「こんな仕事せんでええんちゃうか」、「こんな長時間かけて通勤せんでええんちゃうか」と思っていると思います。うちの会社の場合だと、遠い人で1時間ちょっとぐらいの通勤をしていました。往復で2時間損しています。私は、家と会社がめっちゃ近いです。徒歩3分ぐらいのところにマンションを借りて、家族で住んでいます。往復2時間通勤にかけている人って、最初のころは「いや、本を読んでるから大丈夫です」とか言っていたと思っていたら、しばらくすると「もう疲れて寝てます」とか言っています。「結局寝てるんやったら、もったいないね」ということにも気付いてくると、もっと自由でいいのではないかというようなことにも気付いてくる。「もう開放的に生きたいね」「何か縛られるというのって、地獄だよね」というようなことに気付き始めている人がいます。これは先ほど出てきたNTTの友達もそうです。もう東京に住む必要性はゼロ、東京ほど住みにくい街はないと彼は言い切ります。仕事があるから東京にいたけれど、出勤しなくて良いのならということで、最初は静岡に引っ越して、それから奈良に引っ越して、本当に自由に生きています。こういう世の中に変わってきたと思っています。 vol.31_8-9.jpg  従来「こうあるべきだ」というような価値観があったわけです。私も仕事というのは「出勤せやなあかん」と思っていました。社員に対しても、「来いよ。何で遅刻すんねん」とか言っていました。働くというのは、出勤して、何時から何時までデスクに座っていることだと思っていました。また、家庭とは、夫婦共働きで、子どもがいて、子どもが何歳ぐらいになったら、そろそろマイホームがほしいみたいなことがスタンダードだと思っていました。今までの価値観じゃなくても問題なかったって気付いたのです。 コロナでいろいろなことが制限されたり、いろんなことを経験したことによって、「今までこれが普通やと思っていたけど、そんなことをせんでもいいんだよね」みたいなことに解放されていく。これが、これからのニューノーマルになってきて、いろんな社会に影響を与えてくると私は思っています。
 では、どういうことが影響を与えてくるのか。スマートワーク、副業・兼業、働く場所の自由化、多拠点居住、中心市街地のリニューアル、憩いのスペースのオープン、双方向のリアルライブコンテンツ、関係性重視の交流とかいうような、いろいろなまちづくりに関係しそうなキーワードを拾ってみました。
 スマートワークを例とすれば、テレワークを通じて、無駄な作業が多かったということに気付きました。例えば、会社にいると、営業電話がかかってきます。こっちが買いたいと思っているものではないものを売りつけにくる。「コピー機を買いませんか」とか、「何とかソフトウエアを買いませんか」とかいう営業電話です。中小企業なので、もう誰かが出ないといけないわけです。これは「めっちゃ無駄」と感じました。資料の作成とかもオンラインやチャットで送ってしまったらそれで済むことを今まで書類にして、稟議上げてとかいうような無駄なことをやっていたと思います。世の中のはんこを押す、押さないという問題も同じで、今は、国に出す書類とかも、全然はんこが要らなくなって、めっちゃ楽になりました。はんこなんて誰もが要らなかったわけです。そんな無駄作業が多かったことに、いろいろ気付き始めます。これに気付き始めるというのは、思考停止していない人です。思考停止している人は、そういうことに気付かないのですが、思考停止せずに、常に自分をアップデートしようとしている人、つまり、優秀な人材は、今までどおりの働き方をさせるところを辞めていきます。これは中小企業にとっては、めちゃくちゃ怖いことです。採用というのは、めっちゃしんどい作業です。大企業は、会社名が有名だから、新卒の希望者がまだ来ますが、中小企業に新卒で行きたい人はなかなか珍しいので、すごく採用が難しいです。採用を必死こいてしたのに、優秀な人から辞めていかれるというのは、超苦しいわけです。ですので、スマートワークを採用しなかったら、どんどん人は減っていくと思いますし、逆に、例えば、うちは大阪の会社ですが「大阪に出勤せんでええで」、「東京で働いてくれててもいいで」とか、あるいは「富山で働いててもいいで」という人を受け入れるということも可能になってくると思っています。これは結構重大だと思います。それからフレックスタイムの拡大、子育てや介護、自己研鑽の時間、副業・兼業、こういうのも、自由な働き方を認めていくというのがどんどん増えていくと感じています。特に、私たちの世代は、まだ子育て中の人がいますが、子育て中の人は、子育てしたいから、今までだったら奥さんはパートで働くという考え方でした。今、私たちの仲間でも、育休を取る男性もめちゃくちゃ増えてきています。テレワークをして、長時間働かなくてもできるということ、あるいは、無駄な作業を削れるということが分かれば、時短勤務で十分ということに優秀な人から気付き始めます。 vol.31_10.jpg 優秀な人はそれに気付いて、そっちに移動しようとするので、辞めていく。そうやって自由に働き始めると、プロジェクト単位で採用するというようなことも今後、増えてくると思っています。専門性を持っている人がいると、どんどん副業・兼業をするようになってくると思います。正直、うちの社員もやっているのではないかと思いますが、別にそれは責めません。私が依頼した業務をきっちりこなしてくれたら、それ以外に副業をして稼いでいても、それで人間力が高まってキャリアも上がるのであれば、ある意味、うちの会社に超優秀な人がいるということで、「あり」と思っています。この3番目に書いてある、全くの異業種・異地域の副業によるイノベーション誘発が、めっちゃ増えてくるのではないかと思っています。どうしても、同じ業界の人とばっかり交流します。そのほうが楽しいし、話も通じやすいしというのがあって、同じ業界の人と話をする傾向にあります。実は、全然違う地域の人、全然違う職業の人と、いろいろ積極的に交流することによって、両方のイノベーションにつながるのではないかと感じています。今後の社員研修なんかも、同業者で集まって、同業者で勉強するタイプのものももちろんあるとは思いますが、違う業種の人と意見交換をする企業なんかも増えてくるのではないかというふうに思っています。
 「働く場所の自由化」これはさっきからずっと言っていますが、働く場所の自由化によって、結構影響が出てくると思っています。家とか、町とか、めっちゃ影響出てくると思います。オフィス街、大阪でいったら本町とかです。あの辺に出勤する人が減ってくると、飲食店が減ってきます。逆に、家で仕事するとなると、家で仕事する環境をめっちゃ快適なものにしたいので、ちょっと広い家に引っ越したりとか、そういういろいろな影響が出てきます。ワーケーションもまだまだ言葉だけが先走っていて、私はあんまりいまいちというふうに思っています。ワーケーションも、先ほど言った異業種、異地域の人との交流という意味でのワーケーションであれば、非常に価値があると考えています。単身赴任は多分、どんどんなくなってくると思います。
 多拠点居住も、私が見ている限り、めちゃくちゃ増えています。いろいろな地域にコンサルに行っていますが、移住してきた人の多いこと多いこと。奈良もめっちゃ移住してきている人が増えています。圧倒的に一番増えたというのは、淡路島です。私も淡路島に土地、建物を買いに行ったのですが、高すぎて買えませんでした。都市部にいるとストレスが多いからか、郊外へ行きたいというふうな思いの人が増えてきたのか多拠点居住が増えています。また、多拠点居住をサポートするためのサービス「フリーアドレスサービス」も増えています。サブスクで月額料金を払ったら、いろいろなところ泊まれるサービスで、若者向けの3万円ぐらいからちょっと大人向けの30万円ぐらいまで、いろんなサービスがあっていろんなところに住めます。これがどこも人気です。私もいくつかのサービスに申し込んで、いろんなところに行ってみました。今後もっと増えそうだと思っています。それからモービルライフの活性化も進むと思います。ガソリンが高くなってくるとどうなるか分かりませんが、キャンピングカーは爆売れです。私、実はコロナの前まで、キャンピングカーを持っていました。でも、「もうええわ、子どもも大きなってきたし」と思ってキャンピングカーを売りました。ええ値段で売れたので、良かったと思ったのですが、コロナになってから売っていたらもっと高く売れたと思って、めっちゃショックを受けました。モービルライフは、今、脚光を浴びています。キャンプブームと同じで、旅をしながら、仕事をしながら、車の中でずっと生活しているという人、私も出張先とかで何人か出会いました。家を見せてくださいって車も見せてもらいました。なかなか快適とは言えませんが、住めるように車を改装していました。こういう人も増えてくるだろうと思います。
 中心市街地は、出勤する人が減ってくれば減ってくるほど、オフィステナント空洞化が進むと思います。うちの会社もオフィスを半分にしました。飯屋や弁当屋とかのオフィス労働者目当てのビジネスも厳しくなってくると思います。私、定期的に東京に行っていますが、大阪よりも東京の会社の方がテレワークをやっている人が多いようで、「あれ? 有楽町って、こんなに寂しかったっけ?」と思うときもあります。家で快適に仕事をしたいという人が増えてくるので、きっとワークスペースを充実したような新築マンションとか、東京中心にどんどん出来てくると思いますが、大阪ではそんなに増えないかと思います。それからビルの密集というのを避け、憩いのオープンスペースが求められるようになってくると考えています。歩道空間が増え、自動車を中心まで侵入させないというのは、今、御堂筋なんかでも、どんどん増えていっています。さっきの車生活が増えていくという話と、何か矛盾しているような気がするかもしれませんが、都心部の真ん中までは車で行けないということが増えてきている、そんな気がします。それから今までは行政が主導でやっていたエリアマネジメントを、地域や民間企業に任せたりなんていうようなことも今後はもっと増えてくると思います。私、最近、姫路にちょくちょく仕事で行きますが、新幹線の姫路駅を降りたら駅前がめちゃくちゃ生まれ変わっていて、パブリックスペースがドーンと広がっていて、姫路城がダーンと見えてめっちゃ快適です。バスだけは横を少し通っていますが、車は全然通ってなくて、こういうふうな町が、今後、コロナ以降は増えてくるのではないかというふうにも感じています。
 オンラインが増えていくと、やっぱりコミュニケーション不足になってくる部分があるので、リアルな場が求められる。ただし、不特定多数のリアルな場じゃなくて、特定の人とのリアルな場というのが求められてくるというふうに思っています。
 関係性重視の交流はめちゃくちゃ重要というふうに思っています。業務とかも含めて、どんどん効率化していき、いらん人と会わないというようなことをしていくと、大切な人とは会いたいという、そういう時間を作るようになってくるのではないかと感じます。従来だったら、会社に出勤して、「おっしゃ、飲みに行こか」って課長が言って、みんなで飲みに行くというようなことも多々ありました。それが好きな人や楽しい人はご機嫌で行っているわけですが、楽しくないと感じて「行くもの嫌」と思いながら行っていたような人は今後、飲み会には行かずに、その代わり、大切な人とはゆっくり時間を過ごしたいということを求めるようになっていくと思っています。
vol.31_11.jpg  私が考えるアフターコロナのまちづくりとしては、人が1つの場所に縛られなくなって、どんどんいろいろなところに散っていくのではないかと思っています。例えば、私は大阪にいますが、大阪というアイデンティティーだけじゃなく、それこそ山口県であったりとか、あるいは福島県であったりとか、いろいろな土地に何かアイデンティティーを持つというような、多拠点居住のようなそういう人が増えてくるのではないかと思っています。従来の旅行は、地元の人との交流がほとんどなく、物見遊山で、何か見て、温泉入って、うまいもん食って帰ってくる形でしたが、これからは人との交流を求めるような、そういうようなことが深く求められてくるのではないかということを仮説として考えています。訪問先の人と双方向に自己研鑽ができるような、そういう社会が求められていると感じています。東京の人は、もうその傾向が圧倒的に増えてきています。東京の大企業に勤めている人は、さっきも言ったように、どこに住んでも全然問題ないですから、いろんなところに行くようになっています。いろいろなところで、いろいろな人と交流していって、そこでコミュニケーションを取って、新たな知識を得たり、共感力を高めたり、イノベーティブになったりというようなことを東京の人はめっちゃ進めています。昨日私、東京の人とオンラインミーティングをしましたが、もう今までどおりの住み方、働き方は東京ではしなくなるというようなことをおっしゃっていました。私もそれを感じています。だから、そういう人たちを受け入れられるような都市づくりをしていかないと、どんどん優秀な人が離れていきます。優秀な人こそ来てもらわないといけないのに、優秀な人が離れていく。こういうことがこれからのまちづくりにめちゃくちゃ重要になってくると考えています。
 関係人口を増やすことをコンセプトにした宿をやったほうがいいということを最近、いろいろな地域で提案しています。単なる普通のホテルを作らずに、その地域の関係人口になるような、そんなことができる施設を作っていきましょうという話をしています。この話を理解してくれる人はまだごく一部です。まだまだ難しい概念のようで、ご理解いただけない地域も結構あります。

4.観光から関係へ

vol.31_12.jpg

 私自身、観光で20年飯を食ってきて肌で感じていますが、もうそろそろ観光は終わるなと思っています。スマホ、SNS、インターネット、そういったもので、人と人との距離はつながっているから、長年会ってないけれどずっと知り合いみたいな気分になれて、物理的な距離は離れているけれども、人と人との距離は近づいている。そうなってくると、物見遊山ではなくて、人と人が関わる、友だちになるというようなことが、従来の観光から取り変わってくるのではないかということを私としては仮説として立てています。これはうちの従業員も、「観光」から「関係」に変わっていくと捉えています。要は、「従来の物見遊山をやっていたら駄目だよね」、私たちの会社でいうと、「地域のファンは物見遊山では作れない」というふうに考えています。物見遊山というのは、「見る、食べる、遊ぶ、体験する」という、俗に言う、「るるぶ」というやつです。「るるぶ」じゃ、地域のファンは作れないというふうに思っています。「あの人がいるから、あそこの町に行くんや」という、そういう「関係」に変わってくるというふうに思っています。

大阪商業大学 総合交流センター

〒577-8505 
大阪府東大阪市御厨栄町4-1-10

TEL 06-6785-6286
e-Mail react@oucow.daishodai.ac.jp