「職業教育のこれからとアクティブラーニング~高大接続教育改革の視点から~」 | 講演会レポート | 大阪商業大学 総合交流センター

講演会レポート

「職業教育のこれからとアクティブラーニング~高大接続教育改革の視点から~」

毎日新聞社教育事業本部
大学センター長
中根 正義

日本の現状と教育改革の必要性

日本の課題

今日は、「職業教育のこれからとアクティブラーニング」というテーマでお話しをしますが、今、教育改革が進められています。そもそもなぜこの時期に、教育改革が言われるようになったかということを踏まえながら、職業教育の話をしていきたいと思います。

日本の状況は、どうなっているのでしょうか。まず少子高齢化という問題が起きています。50年後には総人口が約3割減少すると予想されています。実際に、今少子化がどれだけ進んでいるかということですが、団塊の世代といわれる世代がちょうど1966年ごろに18歳を迎えましたが、当時の1学年当たりの18歳人口は、約250万人でした。いわゆる団塊ジュニアといわれる世代が18歳を迎えた1992年ごろ、当時の18歳人口は、大体205万人です。それが、今年春の18歳人口は、約120万人となっており、団塊世代と比較すると、半減以下になっています。また、昨年生まれた子供の数は、97万人で1899年の統計調査開始以来、初めて100万人を切りました。

現在、少子化対策が言われてますが、本当であれば第1次安倍政権の時代に、団塊ジュニアの世代に向けて少子化対策に乗り出していれば、まだ何かできたかもしれません。しかし、既にその世代も40歳を超えてしまって、そもそも子育て世代が大きく減っているのに少子化対策といっても非常に難しくなっています。仮に今年から劇的に変わったとして、その世代が子供を産めるのは、早くとも20年後という状況であることを考えると、少子高齢化対策は簡単ではないということがご理解いただけると思います。

そして、少子高齢化の最大の問題は、生産年齢人口の減少です。15歳から64歳までの世代のことを指しますが、いわゆる仕事を見つけ、働く世代です。また、結婚して、子育てをし、生産活動に携わるだけではなく、消費をする世代でもあります。その一番消費が多い世代が減っている。そういう点から見ると、デフレというのは、日本の市場がいかに小さくなっていっているかということなのです。

今、生産年齢人口の上限を、65歳から70歳に引き上げようという話もあるのですが、いずれにしても、日本の市場は、消費世代でもある働き手が減って、市場が縮小しているということが、資料のグラフから言えます。こういう数字を見ると、これからの日本が抱える課題がいかに大きいかが、具体的に理解していただけるのではないでしょうか。

図①

日本の課題の3点目は、日本の国際的な存在感が低下していることです。世界的にグローバル化が進展しています。2007年ごろには、中国にGDPで抜かれ、インドも迫ってきている状況になっています。このような中で、どう日本のプレゼンスを高めていくかを考えていかなければなりません。4点目は、情報化です。AIとかIoTが話題になっていますが、一部分野では、すでに人材育成が遅れていることが指摘されています。

今、第四次産業革命の時代だとも言われていますが、このような大きな時代の転換点に私たちはいるということを認識しなければいけません。そういう時代であることを認識したうえで、子供たちの教育を考えていかなければならないのです。

なぜ、教育改革、入試改革が必要か

ニューヨーク市立大学の教授や、オックスフォード大学の教授が、今の子供たちの65%は、大学卒業後、現在は存在しない職業に就くだろうと予測しています。今後10年~20年程度で約47%の仕事が自動化される可能性が高いと言っています。

実際、自動車には衝突を回避する装置が付くようになっています。また、無人化運転の実用化も始まりました。30人ぐらいの職人を使い自動車の修理工場をやっている知人に最近会ったところ、「今はもう本当に企業存亡の危機だ」と言っていました。安全装置の出現で、自動車の事故が少なくなってきているのです。簡単にいうと板金屋さんは必要なくなるということです。トヨタが、マツダと提携をするという話もありました。その理由は、いわゆる電気自動車の開発であるといわれています。ガソリンエンジンを使った車が、必要なくなる時代が来るかもしれません。トヨタの社長は、「これからのライバルはGoogleである」と言いました。世界一の技術を持つ自動車業界ですら、もしかすると、今ある仕事がなくなる可能性があると言えます。

「あと10年で、半数の仕事がなくなる」という例では、銀行の融資担当者やクレジットカードの申し込みの審査はマイナンバーの普及によって必要なくなり、レストランの案内係もタブレットの普及によって必要なくなります。

そういう時代を迎えている中、教育改革・入試改革が必要とされているのは、これまでの人材育成と違った時代に突入しているからです。このような時代になると、言われたことをそつなくこなすのは、ロボットがやるようになります。

これからは、予期せぬ事態に直面しても、自ら課題を見つけて提案し、実行する人材が求められるようになります。また、グローバル化が叫ばれる中、国際交流で宗教や文化的背景の異なる人と、どううまく付き合うかが問われることになります。国内でも昨年外国人労働者が80万人を超え、今年は100万人を超えるといわれています。このことは、私たちにとっても身近な問題になっているのです。

図②

新たな時代を迎える中で求められているのが、学力の三要素といわれるものです。①知識・技能 ②思考力・判断力・表現力 ③主体性・多様性・協働性です。知識や技能は、今までも言われてきたことです。そこにプラスアルファするものとして、表現力や主体性・多様性・協働性が問われるようになっています。

この学力の三要素が入試においても問われるようになり、同時にカリキュラムも変わります。すでに改革が進み始めており、2020年から、小学校1年生からプログラミング教育が行われるようになります。英語は、小学校5~6年生で正規の教科になり、英語の4技能が求められます。授業では、アクティブラーニング、ICT教育が重要になり、さらに、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力が求められる時代を迎えつつあり、中学や高校でも学習指導要領が大きく変わろうとしています。

では、学力の三要素のうち、主体性・多様性・協働性とは、どのような能力でしょうか。簡単に言うと、社会、世界と関わりながら、よりよい人生を送ることができるか、ということであり、思考力・判断力・表現力は、知っていること、できることをどのように使うかということの能力です。これらの能力を伸ばすために、アクティブラーニングが大事だと言われています。

学習評価も充実させなければいけません。学習評価で学びの証明書をつくろうという動きがあります。調査書をデジタルカルテ化し、将来的には小学校から大学まで蓄積することで、子どもの学習の履歴を分かるようにしようということが考えられています。それを就職にも活用しようという構想もあります。ただし、情報漏えいの問題や個人情報の問題があるため、公的な組織をつくって、きちんと管理しようという検討もされています。

アクティブラーニングとは

では、アクティブラーニングとは何か、文部科学省は主体的・対話的で深い学びと言い替えました。生徒たちが活発に動き回る学びでしょうか。たくさんの体験をすることなのでしょうか。そうではなく、子供の思考が活性化し、互いに真剣に立ち向かうための学びであると言われています。さらに言うと、積極的に自分の考えを伝える。何のために知識を習得するのか、それによりどのような成長があるかを自覚すること。また、子供同士で教え合うというようなことが重要です。教師の役割は、今までのように一方的に教えるのではなく、生徒をサポートして、いかにやる気にさせるか、意欲的にさせることが重要になってきます。

大学入試改革はどうなるか

大学入試改革はどのようにに変わるかということですが、2020年度と2024年度の2段階の改革になります。24年度は、新しい学習指導要領が始まります。新テストには記述式が入り、英語の4技能が問われることになります。それには、民間の検定試験を活用することが決まっています。記述式については、大学入試センターで新テストを行うことになり、国立大学のほか、私立大学の一般入試等でも取り入れられることになると思います。AO入試や推薦入試でも記述式が行われるようになりますが、すでに私立中学の入試で記述式を意識したもの、表現力を意識した出題が行われるようになってきています。

図③

今後のスケジュールは、図③のようになり、これから新テスト実施に向けた試行テストが行われます。ただし、この改革については、課題が非常に多い。記述式が導入されることで、難易度が上がるのではないかとの指摘があります。全国高等学校校長会からも懸念する声があがっています。また、記述式や英語は段階評価にするという案なので、自己採点が難しくなります。英語については、外部試験を利用しますが、学習指導要領との整合性、例えばTOEICとかTOEFLなどの基準が妥当なのかという問題があります。それから地方ではTOEICやTOEFLは、1つの県で1カ所、県都でしか行われないという可能性があります。そうすると地域間の格差が出てきます。また、外部試験は一番高いものだと2万5000円ほどかかります。これを受験生に負担させるのかという課題があります。

外部試験は年に2回の受験が可能です。現時点では、受験した結果の良い方を選んで、調査書に反映させるということですが、一番早い試験で7月頃の受験となると、その対策のために学校行事の時期を変更しなければならなくなるなどの問題も出てきます。また、7月の外部試験のために準備をしなければいけないとなると高校2年頃からの対策となり、入試の早期化、長期化ということが考えられます。

進路指導も非常に複雑になります。現状、AO入試、推薦入試と一般入試の方法がありますが、そこに加えて外部試験の対策も必要になります。課題は山積みです。文科省の担当者が「まだまだ詰めていかないといけないところがいっぱいあります」と言っている状況で、今後の動向について、私たちは注視していかなければなりません。

もう1つ、高校生の学びの基礎診断という新たな取り組みがあります。これは、今の小学校・中学校で行われる学力テストと同じような形で高校で実施されようとしています。高等学校における基礎学力の定着が目的とされていますが、入試には活用しないという方向で進められています。

大学入学者選抜の評価については、今後、高校の先生方も巻き込んで評価の在り方について検討していくことになります。思考力・判断力・表現力などの力をどう評価するのか、これからの課題です。

職業教育の未来と専門職大学

このような流れの中で、職業教育はどのように変わっていくのでしょうか。まず19年春に設立が検討されている専門職大学について見てみましょう。高等教育は、欧米ではスペシャリスト、プロフェッショナルを養成する形で進んできましたが、日本はどちらかというと、ゼネラリストの養成が中心になっていました。ところが、労働人口が減っていく中、ゼネラリストではなく、プロフェッショナルを早くから養成し、多様な人材を育成・活用する必要性があるという方向に変化しました。また、社会人の学び直しの場としても重要視されています。職業教育は現在、専門学校で行われていますが、教育の質をどのように確保するのかということが課題になっています。

現在の高等教育は、第3段階教育というような言い方をします。大学・短大・高等専門学校・専門学校がありますが、多様性はあっても、政策的なかじ取りがなく、労働市場での適切性がない。学校種別が異なっているため、相互の関係性が希薄という問題点があります。

そこで、実践性と幅広い基礎教養を身につけ、産業・職業の社会的ステークホルダーと深く関与するようなプログラムを実施することで、専門職大学を制度として位置づけ、新たな職業モデルを構築していくことが検討されているのです。大学・短大のいわゆるアカデミックなものと、専門学校の実技を両方行うのが専門職大学です。より具体的に言うと、学士という資格を与えるのですが、キャリアデザイン力、コミュニケーションスキルといったところを重視することが大きな特徴です。

修業年限のパターンは、大学相当の4年制と、短大相当の2、3年制を設けます。企業との連携を重視し、卒業単位の3~4割を実習や演習に充てるということが大きなポイントになっています。企業内実習を2年間で300時間以上実施します。教員は企業などで5年以上の実務経験を持つ者を4割以上とすることを義務付け、ITや観光、農業などの成長分野でけん引役を担う人材を育成するということが非常に大きなポイントです。

ただし、課題として本当に企業が企業内実習を受け入れてくれるのか。本当に実践的なスキルが学べるのかという点でハードルが高くなっています。企業にもそれなりの義務付けが出てきますので、それに応えられる企業がどれだけあるのかという問題が実はあります。

また、教員が確保できるのか、産業界との連携がうまくできるのか、既存の教育機関との違いをどう出すのか。例えば実績が上がっている専門学校の人たちの話を聞くと、「4大なんか相手じゃない。生き残っている短大との勝負なんだ」という声がよく聞かれます。「2、3年の修限年限を4年に水増ししただけじゃないか」という声も上がっています。専門職大学を卒業した学生が、既存の4年生大学を出た学生と同等の価値があるものになるのか。そうした点にも注目していく必要があります。

図④

これからの時代を生き抜くために

最後にこれからの時代を生き抜く能力について考えてみたいと思います。これからの時代は、複雑化する社会の中で、答えが1つでない課題に向き合うことが求められています。答えが1つの問題は、人工知能やコンピューターがやってくれます。答えが複数ある問題については、まだまだ人工知能は最善の回答を出せていません。複雑化する社会の中で物事を読み解いて、自分なりに考えられる、そういう人材が求められているのです。それから、グローバル化に関しては、価値観が違う人とともに生きることを考え、それが実現できるかどうか。主体的に働く人材です。自ら課題を見つけて提案し、実行する人材が求められているのです。

それをもう少し具体的に考えると、さまざまな情報を収集し、客観的に分析・評価し、論理的な思考で合理的な判断ができることが重要になってきます。生まれた国や地域だけでなく、異なる国や地域の文化や歴史、社会について理解でき、異なった考えの人とも積極的に関わり、協働していく。

そういうときに大事になるのは、リーダーシップとフォロワーシップではないでしょうか。中でもフォロワーシップが特に重要だと思っています。例えば、1つの組織で、自分に何ができるのかを考えられる人材、自分で考えて、自分で行動できる人材です。人に言われければ動かないのではなく、自ら能動的に動く人材を育成することが大事になります。指示待ちではなく、自分から「この中で私はこういうことができるな」と思ったら積極的に動く。そこでは、「私がやります」と言うこともありますが、言わなくとも自分で動けることが重要で、子供たちにいつも意識させることが、これからの時代では大切になるでしょう。

ですから、そのために、アクティブラーニングを活用することもあるでしょう。先生たちが教えるばかりではなく、子どもたち同士での学び合いも意味があります。子どもたちが、ゼミ形式で1つの問題を教え合う。誰かがリーダーになり、そのことに対して、ああじゃない、こうじゃないとみんなで話し合う。学び合うということから、友達の考え方を意識するようになります。アクティブラーニングを難しく考えるのではなく、根本は、子供をいかにやる気にさせるか。いかに動機付けさせるかを意識していくと、その本質が分かるのではないでしょうか。

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