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授業の事例紹介

高校における実践報告「株式会社GIFUSHOの取組について」

Pick Up Lesson Vol.93

高校における実践報告
株式会社GIFUSHOの取組について

岐阜県立岐阜商業高等学校  後藤 有喜 氏


1 はじめに

本校は、今年創立114年を迎える県下最大規模の単独商業高校であり、流通ビジネス科(4クラス)、情報処理科(3クラス)、会計システム科(2クラス)、国際コミュニケーション科(1クラス)の4学科を設置、全校生徒は約1,200人、校訓「不撓不屈」の下、「資格取得日本一」「部活動日本一」「進路達成日本一」を目標に掲げ、文武両道を目指した学校教育を推進している。

これまで岐阜県の商業教育の中心校として県内の商業教育をリードするとともに、1985年(昭和60年)に開始した学校デパート「岐商マルシェ」をはじめ、2001年(平成13年)には、商店街の空き店舗を利用した店舗の運営を行うため「ベンチャーマート2号店」を開店した。さらに、2016年(平成28年)には、実質的に生徒自身が経営する起業「株式会社GIFUSHO」の設立を行うなど、恒に先進的な取組に挑戦している。また、近年では平成15~17年には「目指せスペシャリスト」(文科省指定事業)、平成24~25年には「飛び出せスーパー専門高校生推進事業」(県指定事業)、平成25年「県立高校改革リーディングプロジェクト推進事業」(県指定事業)、 平成26年~28年「スーパー・プロフェショナル・ハイスクール」(文科省指定事業)、同時期に「知的財産権に関する創造力・実践力・活用力開発事業」((独)工業所有権・研修館事業)、平成29年からは「岐阜県版スーパーグローバルハイスクール」(県指定事業)など、国や県の研究指定事業にも積極的に取り組んできている。

2 株式会社の設立について

平成24年4月に指宿市立指宿商業高等学校が「株式会社指商」設立、この年の末に同校を訪問し、設立に関する手順やノウハウの指導を受け、翌年から設立準備に取りかかり、平成26年から3年間、文部科学省の「スーパープロフェッショナルハイスクール」事業の指定を受け『会社設立・経営をとおして実践力・創造力・起業家精神を身に付け、グローバルに活躍するビジネスリーダー育成プログラム』~Be The CEO Project~(「生徒全員が社長」プロジェクト)を開始し、この事業の中で実現する柱の1つとして位置づけた。

(1)設立の経緯(平成27年度)
  4月 公認会計士の指導により株式会社設立の目的に合致する機関設計を検討
      機関の概要: 生徒が株主、PTA役員。同窓会役長より取締役5人、監査役1人
      代表取締役より経営を委託された学校(生徒)が会社の業務を執行
  5月 PTA総会において、株式会社設立の概要を説明し、生徒からの@¥2,000の出資を承認
  12月4日 第1回会社設立講座
      司法書士山口八郎氏を招聘し、会社設立の事務的な流れ、定款作成について講義を受ける。
      LOB部の部長、副部長、代表生徒3人、会計システム科の生徒3人により、定款に必要な「会社の目的」を協議し、
      ㈱GIFUSHOの定款を作成。設立時取締役を務める発起人及び関係生徒とともに、㈱GIFUSHOの機関設計等の検討
  12月10日・17日 定款作成
      定款作成に向け、株式会社の機能、定款に必要な記載事項について学習するとともに、㈱GIFUSHOの定款を作成
  12月22日 第2回会社設立講座
      司法書士山口八郎氏より、生徒が作成した定款の確認を受けるとともに、定款に記載の条項の内容について受講
  1月19日 企画委員会において定款の内容について承認
  1月20日 公証人役場において定款認証
      会社設立メンバー8名と同窓会役員、PTA役員で会社設立時取締役を務める3人により公証人役場を訪問し、定款認証を
      受け、公証人より公証人役場の使命について受講
  1月28日 第3回会社設立講座
      司法書士山口八郎氏より、会社の登記に必要な書類の作成方法について説明を受け、各種書類を作成、登記日は「大安」
      である2月2日と決定
  2月2日 ㈱GIFUSHO設立登記申請書類を法務局に提出

(2) 実施内容
ア 会社設立準備委員会の発足
   生徒8人、会社役員に就任する同窓会・PTA役員5名、合計13人により構成
   生徒:LOB部 2年生5人、会計システム科 3年生3人
   発起人:同窓会役員、PTA役員5名

  ※会社の設立を企画して定款をつくり、必要な事項を記載して署名または記入押印し、事実上その発起行為にあたる者
  (会社法26条1項)。
    株式会社の設立には1人以上の発起人が必要であり、また各発起人は少なくとも1株以上の設立時発行株式を引き受けなければ
   ならない。(25条2項)

イ 会社設立の目的の設定
本事業における株式会社設立の目的について発起人と生徒による協議を行い、以下の5点を本校による株式会社設立の目的と定めて会社組織の概要を決定した。

 (ア)実際の「商い」を行う中で「商才感覚」を身に付ける。
   株式会社における利益獲得活動の中において、通常の授業における実習では体感することのできない、「商才感覚」を涵養
   する。
 (イ)商業高校で学んだ知識・技術を主体的に実践する。
   1・2年生で学んだ各種商業に関する知識・技術を発揮する場所として株式会社を活用する。
 (ウ)商業の実習費用を捻出する。
   商品開発やPCによる実習等の各種費用を株式会社の費用として支出する。また、株式会社において獲得した利益は次の実習の
   運転資金とする。
 (エ)会社を運営しながら「株式会社」の機能を学習する。
   株主総会や役員会の運営、株式の管理等株式会社の業務を体感することにより株式会社の機能を学習する。
 (オ)会社の運営をとおして地域・社会に貢献する。

ウ 会社設立の手順
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エ 会社機関のデザイン
株式会社の機関設計を行うとともに、新たに設立される株式会社と、学校・生徒・教員との関係を明確にする必要がある。

 (ア)株主と役員との関係
   株主:生徒が出資し、生徒が株主となる。
   役員:株主(生徒)から選任された同窓会・PTA役員が役員となる。
   外部的な会社との契約、法に則した対外的な業務は本校の同窓会・PTA役員が行う。これら役員は無報酬により会社の運営に
   あたる。また、これら役員の方々は会社の経営に携わっている方が多く、生徒による会社運営のアドバイザー的な役割も兼ね
   る。
 (イ)会社と学校の関係
   会社の役員より学校の経営を委託され、生徒は会社の業務を行うとともに、教員はその実習を指導・支援する。
 (ウ)会社機関のイメージ図

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オ 定款の作成
定款とは全ての会社が有す基本ルール集のような書類で、会社の憲法とも呼ばれているものである。定款の各種条項は、必要度により社名や事業目的、本店所在地、資本金の額など必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と必要に応じて記載する「相対的記載事項」と記載するかどうか自由に決められる「任意的記載事項」がある。

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 (ア)商号
   商号とは会社名のことである。計画当初は「株式会社LOB」と決まっていたが、商号を決める時点で商号は「どんな会社なの
   か、何の事業をしているか」をイメージさせることが大切である。
   本校が運営する会社は「県立岐阜商業高校の生徒が運営している」ことが肝要であると考え、商号を「株式会社GIFUSHO」と
   した。
 (イ)事業目的
   会社の事業は、定款に書かれた「目的」に沿って経営活動を行う。現状の事業内容だけでなく、これから実施したいと考えて
   いる事業は定款作成時に記載する必要がある。定款作成当初は、飲料品や食料品、日用雑貨品の販売しか考えてなかったが、10
   年後、20年後、㈱GIFUSHOが発展する中で「アプリやキャラクターの販売ができるのでは?」、「インターネットを利用した
   情報提供サービスができるのでは?」と将来に思いをはせて大きく11の事業目的を定款に記載した。
   ・飲料水、酒類及び食料品、の製造、加工、販売
   ・食料品(健康食品やサプリメントを含む)、衣料品、衣料雑貨品、日用雑貨品、化粧品、アクセサリー、スポーツ用品、情報
    機器、玩具・文具等の販売及び輸出入
   ・飲料水、食料品(健康食品やサプリメントを含む)、衣料品、衣料雑貨品、日用雑貨品、化粧品、アクセサリー、スポーツ用
    品、情報機器、玩具・文具等を販売するネットショップの運営、管理
   ・靴等履物の企画、デザイン、製造、販売及び輸出入
   ・資格取得に関する書籍、教育出版物の企画、制作、出版及び販売
   ・パソコン教室、スポーツ教室、簿記教室等の体験・学習教室の企画、運営
   ・イベント等の各種チケットの売買に関する業務及びそれらに関するコンサルティング
   ・アプリ等デジタルコンテンツの企画、立案、制作、配信、販売
   ・広告宣伝物、印刷物等の企画、デザイン、制作、配信、販売
   ・インターネットを利用した各種情報提供サービス
   ・前各号に附帯する一切の業務
 (ウ)本店の所在地
   民間企業である㈱GIFUSHOの住所は、産業連携協定を結んだカワボウ株式会社が運営するショッピングセンターマーサ21に
   本店の所在地を置くことになった。
 (エ)事業年度
   事業年度は1月1日から12月31日の1年間である。4月1日始まりである授業年度とは異なるが、3年生は、2月に決算株主総会を
   開催し、会社の業務を見届け卒業することとなる。
 (オ)株式譲渡制限
   株式譲渡制限とは、自分の会社の株式を勝手に売買されないための約定である。㈱GIFUSHOの、株主は生徒であり。生徒以外が
   株主になることは原則禁止する。よって、定款に株式の売買に関しては会社の承認が必要であると明言しなければならない。
カ 定款認証
   定款は公証人役場で公証人の認証を受けて初めて法的な効力を持つ。岐阜公証人合同役場において定款の承認を受けるととも
   に、公証人役場の役割について講義を受けた。

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キ 登記
2月2日(大安)に登記所である法務局に会社設立の登記申請書類を提出し、会社が設立された。会社の設立日は2月2日である。

ク 会社構内体制の確立
 (ア)会社組織図

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 (イ)株主総会(持株会から名称変更)
   株主は生徒である。全校集会や部活の壮行会など全校生徒が集まる時に必要に応じて株主総会を実施する。全校集会では会社の
   業務報告を行う。また、決算株主総会は2月課題研究発表会に合わせて開催する。
 (ウ)会社運営会(企画運営会から名称変更)
   会社運営会は株主の代表が集まって、意思決定を行う会議である。各HRより会社運営委員を選出する。会社運営委員、部活の
   キャプテン、各事業部長により会社運営会は構成される。同運営会では、㈱GIFUSHOの各業務報告、経営方針の検討や承認を
   行う。月1回定期的に開催する。
 (エ)会社企画会
   ㈱GIFUSHOの最高経営会議である。CEO(再校経営責任者:chief executive officer)や役員は当面LOB部の部長や部員が務め
   る。その後は生徒会長のように生徒(株主)の立候補により選出する。
 (オ)一般事業部
   会社の運営は、事業部制を採る。流通ビジネス科は「販売事業部」、情報処理科は「IT推進事業部」、会計システム科FA類型は
   「財務経理事業部」、MA類型は「学内販売事業部」、国際コミュニケーション科は「グローバル推進事業部」となる。主に3年
   生の「課題研究」「総合実践」の時間で活動を行う。

3 産学連携について

株式会社GIFUSHOの売上の多くを占めているのは、近郊のショッピングセンターの仮設ブースで3年生全員が交代で行っている販売実習である。平成23年度から同ショッピングセンターを運営する「カワボウ株式会社」の協力を得て実施しており、平成27年6月には、より実践的な商業教育の推進を目指し、カワボウ株式会社と連携協定を締結した。これ以降、テナント料として納めた金額に相当する額を備品や研修というかたちで寄贈していただいている。

株式会社設立後は、各事業部で業務分担を行ったことで、このような従来からの連携先と新たな取組や新商品の企画・開発など多くのことができるようになり、新たな連携先も増えた。

4 実施の効果とその評価


模擬的な体験実習ながら、会社の設立過程や経営活動に生徒が主体的に参画することにより、商業に関する専門性の深化を図ることができた。また、地域における企業と協働でビジネス活動を展開することにより、実際のビジネス活動の厳しさ、利益を上げる困難さ、消費者ニーズを的確に把握するマーケティングの実証性と検証の必要性、コスト意識など、会社経営を肌で感じることができるとともに、商業で学習した知識・技術を総合的に活用することで学習意欲を高め、自ら学ぶ意欲を喚起させることができた。さらには、将来、地元において起業をしたり、地元企業に就職し地域経済の発展に貢献しようとする意識も高まった。

また、本校職員の意識においても㈱GIFUSHOの模擬経営による実践的・体験的な学習をとおして、生徒の専門教科に取り組む姿勢、課題解決に向け取り組もうとする姿勢、将来の職業に対する意識、地域に貢献しようとする意識が向上したと感じるとともに、職員全体の実践的・体験的なビジネス教育に対する意識も向上した。

このように、実社会における企業の経営活動を生徒が主体的に体験することにより、経営管理能力を養うとともに、学校で習得したビジネスの知識・技術の更なる深化を図り、また地域社会の貢献に寄与しようとする態度を育成することができた。

※アンケート調査より「あなたは、将来、地域経済の発展に貢献したいと考えていますか」という問に対する解答(平成28年度3年生の経年比較)

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5 おわりに


株式会社を立ち上げたことによるメリットは、以下のとおりである。
 ・実践研究にかかる費用を捻出できる(利益を次の事業=実践の資金に)
 ・生徒達のモチベーションを上げることができる(競い、稼ぐ意識高まる)
 ・企業向けの補助金や金融機関等のサービスを受けることができる
 ・連携先が広がる。(連携先の紹介や取引先としての問い合わせが増えた)
 ・学校全体で取り組むことができる(共通教科の先生の協力)
特にデメリットになるようなことはない。
今後については、新規事業を行うことや業務が増えることを鑑みながら、一方で教員の「働き方改革」のことも視野に入れながら、会社業務のあり方について何をスクラップするかを考えていく必要もある。
大阪商業大学 総合交流センター

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